中東かわら版

№114 イスラエル・パレスチナ:テルアビブへのロケット弾発射事件

 2019年3月14日、イスラエル軍はガザ地区からテルアビブに向けてロケット弾2発が発射されたと発表した。イスラエルの報道機関は本件について、イスラエルの防空システムのアイアン・ドームが迎撃を試みたが、撃墜が成功したかは未確認と報じた。また、本稿執筆時点でのテルアビブ市の人的・物的被害の有無は不明。

 イスラエル軍は、ロケット弾はイスラーム聖戦機構(PIJ)が発射したものと主張し、ガザ地区のハマースやPIJの拠点複数を爆撃した。爆撃により、大きな被害が出ている模様である。こうした動きについて、ハマースは軍事部門のカッサーム部隊名義の声明で、ロケット弾の発射は自派の責任ではないと発表した。また、PIJも報道官やガザ地区の事務所長らが報道機関に対し、ロケット弾の発射を否定した。

画像:ロケット弾の発射を否定するカッサーム部隊の声明。

 

評価

 『アル=ジャジーラ』によると、ガザからテルアビブへのロケット弾発射は5年ぶりのことである。また、同社はイスラエルの爆撃についてもハマース、PIJの拠点8カ所に対する限定的なものであると報じた。今後は、これまでもイスラエルとパレスチナとの衝突の際に仲介に立ってきたエジプトを軸に事態の鎮静化が図られると思われる。パレスチナ諸派の側は、昨今のガザ地区の窮乏に鑑みるとイスラエルとの対決を一定水準以上に激化させる誘因に乏しい。また、ハマース、PIJがそもそも爆撃の発端となったロケット弾の発射への関与そのものを否定していることから、爆撃に対して大規模な反撃に出るとも考えにくい。他方、イスラエルでは4月9日に議会選挙が予定されており、事態への対応の巧拙は選挙結果にも影響を及ぼしうる。過去にもイスラエル政府が国政選挙を意識したと思われる対パレスチナ、レバノン軍事行動に出た事例があるが、これらが常に与党に有利に作用したわけではない。国外に「敵」を設定してこれとの緊張を煽ることは、世論を政府の下に団結させる効果が期待できるものではある。しかし、軍事力の面でパレスチナは「敵」とするにはあまりに弱体であり、イスラエル軍の行動の規模によっては、議会選挙の結果だけでなく国際的な対イスラエル観にも悪影響が生じるであろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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