中東かわら版

№113 イラク:イランのロウハーニー大統領の来訪

 イランのロウハーニー大統領はイラクを公式訪問し、同国のサーリフ大統領、アブドゥルマフディー首相、ハルブーシー国会議長と各々会談した。また、両国は合同協議(イラン側:ロウハーニー大統領、イラク側:アブドゥルマフディー首相)を開催した。協議後、双方は石油、通商、保健、バスラ・シャラームジャ間の鉄道建設、実業家・投資家向けの査証発給の円滑化についての合意覚書に調印した。協議では、治安協力協定の案文、新たな国境通過地点の設置、合同工業都市の建設、医療・宗教観光などの観光査証発給の円滑化なども議題となった。

 両国は協議後に声明を発表し、イラン側は「イラクがアメリカによる対イラン制裁に参加しないと決定したこと」を称賛した。また、シャットルアラブ川の国境を定めたアルジェ協定(1975年6月13日に締結)とこれに付属する諸議定書について、両国は善意に基づき履行する意向を確認し、合同で川の清掃・浚渫を行うことを決定した。

 

評価

 アメリカのフック・イラン担当特使(イラン行動グループ)は今般の訪問について、「イラクの人々が今般の訪問の動機を問うことが重要だ」と述べるとともに、「イラクの安全・主権・安定について論じるならば、イランはその回答ではない」と指摘し、イランがイラクの諸問題の原因であるとの見解を表明した。アメリカは、親イラン民兵の存在を問題視したり、イランの革命防衛隊がイラクを兵器や要員の移動経路にしようと図っていると危険視したりしている。

 一方、イランはフセイン政権打倒以降イラクとの関係を強化しており、イラン・イラクの両国にとって相互の人の往来や貿易関係は無視できないものとなっている。2018年にイラクのサーリフ大統領がイランを訪問した際、ロウハーニー大統領は両国間の貿易量を年間120億ドルから200億ドルにまで拡大する意向を表明した。特に、現在のイランにとって、イラクはアメリカによる対イラン制裁による経済的圧迫を回避する重要な経路の一つであり、今般調印した諸般の覚書もヒトとモノの移動や投資の促進を重視したものが多い。

 こうした中、イラクはアメリカとイランとの対立の舞台の一つと化した様相を呈している。イラクとしては、アメリカ、イランのいずれも重要な国であるため、両国との関係でいかにバランスを取るか苦慮する場面が増えることも予想される。また、イラクを単にアメリカ・イラン関係の一端としてのみ観察するのではなく、イラク自身の利害関係や主体性に立脚した観察・分析も引き続き重要であろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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