中東かわら版

№112 アルジェリア:大統領選挙の延期、国民会議の開催を発表

 3月11日、ブーテフリカ大統領は4月18日に予定されていた大統領選挙の延期と、憲法改正を含む政治改革を議論する「国民会議」の開催を発表した。また、新首相にバダウィー内務・地方政府・地域計画相を任命、新設の副首相ポストにラアマームラ元外相を任命した。

 以下は、選挙延期と国民会議の開催を発表した大統領声明の要旨である。

 

(1)5期目はない

(2)4月18日に大統領選挙は行われない。選挙を延期する理由は、民衆の要求に応えるため、公共の治安を生み出し人々の恐れを宥めるため、アルジェリアが新しい時代に入る歴史的に重要な作業を進めていくためである。

(3)近いうちに内閣改造を行う

(4)新体制作りに向けた全般的な政治改革を検討・議論するための「国民会議」を開催する

      • 国民会議にはアルジェリア社会の様々な代表が参加する。
      • 多元的な執行機関が国民会議を率いる。トップには政治的所属のない国民的人物が就任する。
      • 国民会議は2019年末までにその任務を終える。
      • 国民会議で憲法改正案を準備し、それを国民投票に付す。
      • 国民会議で大統領選挙日程を決定する。私は何があっても出馬しない。

(5)国民会議の後、大統領選挙を行う。独立した国民選挙委員会が選挙過程を監視する。選挙委員会の任期、構成、内規は法で定める。

(6)自由で透明性の高い大統領選挙が行われるために、国民会議で承認された国民的テクノクラート内閣を結成する。同内閣は、行政全般および治安維持業務を行い、独立国民選挙委員会を支援する。大統領選挙に際して、憲法評議会は憲法と法で定められた任務を行う。

(7)この事業の成功のためにいかなる努力も惜しまない。

 

評価

 ブーテフリカ大統領の5期目に反対するデモは、2月22日、3月1日、3月8日と3週連続で全国規模で行われてきた。大統領による選挙延期の発表は、ブーテフリカ自身は立候補しないことと新体制の構築を目指す改革の約束によって、人々の不満や要求に応えた体裁がとられている。

 しかし上記発表の内容は、実際には、現体制の支配を維持しながら反政府抗議で動員状態にある社会を鎮静化する方法である。選挙延期によってブーテフリカは大統領に居座り続けるため、体制は選挙による大統領交代や民衆抗議による大統領の辞任によって生じうる政治的不安定化を避けられる。そして次の大統領選挙まで、体制側の利益を代表する大統領候補を選定する時間の猶予も生まれた。

 また、国民会議は社会の多様な勢力の代表によって構成され、多元的な執行機関によって運営される議論の場と発表されたが、代表される社会勢力の選定や国民会議の運営は体制がコントロールするはずである。したがって、国民会議は結局のところ、反対勢力に政治参加の機会を与えることで彼らの不満を宥め、体制内に取り込む場となる可能性が高いだろう。また既存の野党は社会での支持基盤が小さく、現体制のなかで政治活動を行うことで利益を得ていた「体制内野党」にすぎない。そのため国民会議に参加したとしても、真の民主的改革を体制に約束させる能力は低いといわざるをえない。抗議デモを呼びかけた主体や参加した主体についても、「ブーテフリカ5期目反対」以上の展望や構想が乏しいように思われることから、彼らの中から発言力のある政治運動や代表者が現れるかどうか疑問がある。国民会議が現体制によって運営される以上、最大の権力者である軍の利益もある程度維持されるだろう。今回の発表から判断するかぎり、国民会議は社会の反対勢力に政治参加の機会を与えることで不満を緩和し、社会に安定を取り戻す役割を果たすと考えられる。

 したがって、アルジェリアの反対勢力がこのように弱い現状では、体制内に改革勢力が現れないかぎり、今後の「新体制づくり」の過程は現体制の社会的・政治的統制能力を取り戻す過程となる可能性が高い。

(研究員 金谷 美紗)

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