中東かわら版

№110 アルジェリア:ブーテフリカ大統領5期目に反対する抗議デモの広がり

 アルジェリアでは4月18日に大統領選挙が予定されているが、ブーテフリカ大統領の5期目をねらった立候補に反対する民衆デモが主要都市で広がっている。政治的な問題で抗議行動が起きることがほとんどないアルジェリアにおいて、前例のない事態が続いている。

 ブーテフリカ大統領は2013年に脳梗塞で倒れて以来、公の場で自ら動いたり発話したりすることはほとんどない。しかし2月10日、国営放送はブーテフリカ大統領が次期大統領選挙に立候補すると発表した。これに対して、SNSや市民団体の間でブーテフリカの5期目に反対するデモが呼びかけられ、2月22日、金曜礼拝の後にアルジェ、オラン、コンスタンティーヌといった主要都市で若者を中心にデモが行われた。翌週の3月1日にも同様のデモが呼びかけられ、北部沿岸地域を中心により多くの都市で、学生、弁護士、ジャーナリスト、労組、女性など多様な社会勢力が抗議デモに参加し、ブーテフリカの辞任やデモを平和的に行うことを叫んだ。TSA通信によると、30県でデモが行われたという(全48県)。各都市での参加者数は数千~数万人規模で、3月1日には183人が負傷し、1人が心臓発作で死亡した(国営通信発表)。また、アルジェリア移民の多いパリでもデモが行われた。

 こうした前例のない反ブーテフリカ民衆抗議に対して、いわゆる「le pouvoir」と呼ばれる権力中枢を形成する体制勢力(軍、与党・民族解放戦線(FLN)、経済界)は、市民が憲法で保障された表現の自由や抗議する権利を行使し、平和的にデモを行うことは正当であると認めつつも、1990年代の内戦を引き合いに出しながら国を不安定化する行為には立ち向かう姿勢を見せている。また3月2日、ブーテフリカ大統領は抗議デモへの対応として、①大統領に再選された場合、政治、経済、社会改革を進める国民会議を開催し、②新憲法の準備、新たな大統領選挙の実施に向けた選挙法改正を行い、③自分は大統領選挙に出馬しない、という内容の改革案を発表した。この発表は、ブーテフリカは4月の大統領選挙に出馬することを意味し、また過去に何度も繰り返された形式的な政治改革の約束にすぎないとして、デモ参加者や野党勢力からは市民を侮辱した内容であると批判的に受け止められた。

 デモの拡大と同時に、体制側の主要勢力内部からもデモを支持する声が現れている。閣僚経験者(ベンビトゥール元首相、ラハビー元文化相)、退役将校(ラフダル・ブーリガア)、FLN幹部の一部、経営者フォーラム(FCE)の現役・前役員(ベンアムル副会長、ラマダーン名誉会長、ハミアーミー前会長など)、UGTA地方支部、ヘジャイヤ県副知事、全国ムジャーヒドゥーン組織(ONM)、全国ムジャーヒドゥーン武器調達・総合通信協会(MALG)などである。

 

評価

 体制側にとって、武力によるデモの強制的鎮圧は死傷者が出るために避けたい選択肢である。最も好ましいシナリオは、治安部隊が強制力を発動しなくてもよい程度の規模で抗議デモが続き、ブーテフリカ大統領を再選に導くことであろう。それをねらって、3月2日にブーテフリカ大統領名義の政治改革案を発表したと考えられるが、反発が増幅しただけで効果はなかったようである。3日に大統領選挙への立候補申請が締め切られ、憲法評議会は10日以内に候補者の審査を行い、正式な候補者リストを発表することになっている。ブーテフリカ大統領は現在、「定期健診のため」ジュネーブの病院に滞在中であるが、憲法評議会が実質的に職務実行不能状態にあるブーテフリカを候補者として認めるかどうかが注目される。もし候補者として認められれば、体制に対する抗議デモはさらに大きくなる可能性がある。

 また、今回の抗議行動の過程で、体制勢力の中からもデモを支持し、体制に改革を求める声が出てきたことに注目すべきである。一般的に、体制変動が起きる前兆として体制内に亀裂が生じる段階がある。現在のアルジェリアでは、体制勢力である与党FLN、労組頂上団体UGTA、経営者団体FCEそれぞれにおいて、中核的な幹部は抗議デモに同調していない状況である。また、アルジェリア権威主義体制の正統性の源泉であり体制受益者であるムジャーヒドゥーン(独立戦争に参加した人々)の組織(全国ムジャーヒドゥーン組織や全国ムジャーヒドゥーン武器調達・総合通信協会)がデモ支持表明をした意味は大きい。しかし、究極的に重要となるのは、体制における最終意思決定者とされる軍の行動である。デモが続く中で、軍がブーテフリカを大統領に据え続けることを自らの利益と考えるかどうかによって、ブーテフリカ体制の行方は決定されるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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