中東かわら版

№108 イラン: ザリーフ外相の辞意表明

 25日、ザリーフ外相が辞意を表明した。自身のインスタグラム上に「職務を続けられないこと、在任中に至らぬ点があったことを心からお詫びする」旨のメッセージを掲載したが、辞任の理由は明らかにしていない。大統領府のヴァーエズィー長官は、この表明から数時間後に同相の辞任を否定するコメントを出した。また、大統領府は公式インスタグラムで、慰留の方針を明らかにしている。

 

評価

 今般の辞意表明によって懸念されるのは、保守強硬派の動きの活発化である。保守強硬派はしばしば現政権と対立し、過去に何度か閣僚を国会の弾劾決議にかけて罷免したこともある。ザリーフ外相も、米国通であることなどを理由に保守強硬派からの批判にさらされてきたが、米国のイラン核合意(JCPOA)離脱以降、その傾向が強まっていた。今般の辞意表明の背景には、こうした圧力も影響したのではないかと考えられる。

 また、ポンペオ米国務長官が「ザリーフ外相の進退に関わらずイランに対する姿勢は変えない」旨をツイートしているが、こうしたニュースへの反応を見るにつけ、トランプ政権にとっても同相の進退が大きな関心事であることが伺える。先般ポーランドと共催したワルシャワ会合(13、14日)において、トランプ政権は「イラン包囲網」を強化することができなかった。これは、JCPOAを維持することで安定化を図りたい国際社会、とりわけ欧州諸国の反発が大きかったためである。こうしたJCPOA存続を巡る動きは、まさに同相が先導してきたものであった。そういった意味では、同相の辞任はトランプ政権にとっては朗報といえよう。

 ザリーフ外相が辞任することになれば、現政権のみならず国際社会にとっても痛手となることは間違いない。同相は現政権の象徴的な存在であり、外交の顔として、ロウハーニー大統領の国際協調路線を支えてきた。また、JCPOAについても、合意に際しては中心的な役割を果たし、米国の離脱後はその維持に尽力することで、国際社会との関係維持に努めてきた。そのため、ロウハーニー大統領はぎりぎりまで慰留の交渉を続けることになるだろう。

 だが、ザリーフ外相の辞任が、直ちに現政権の外交方針に影響を与えるわけではない。2013年にロウハーニー政権が発足して以来、イラン外務省は国際協調路線を拡充すべく、同相の下で精力的に外交交渉を展開してきた。そして現在、アラーグチー外務事務次官やジャーベリー・アンサーリー外相上級顧問を始めとした外交官らがこの路線を強固に支えている。ザリーフ外相は余人に代えがたい存在であるが、イランの外交戦略自体は外相の交代で直ちに揺らぐほど脆弱ではない。辞任の理由が明らかにされていないため各方面の動揺も大きい。しかし、イランの外交方針そのものが変化することが決まったわけではない。慰留の成否や後任の選出に注目が集まるが、今後のJCPOAのゆくえをはかる上では、イラン外交全体の動きについてもフォローを怠らないようにしたい。

(研究員 近藤 百世)

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