中東かわら版

№107 レバノン:イギリスがヒズブッラーの活動を禁止

 イギリス政府は、同国内におけるヒズブッラーの活動を全面的に禁止すると決定した。決定は、3月1日より発効する。決定は、中東の安定を揺るがそうとし続けているとの理由でヒズブッラー全体を「テロ組織」とみなし、同党への加入や党の宣伝を禁止する。違反者には、最大で禁錮10年の罰則が科される。

 なお、イギリス政府は2001年にヒズブッラーの治安部門、2008年に軍事部門の活動を禁止しているが、今般、これらの活動は政党としてのヒズブッラーとは分かちがたいとの見解に基づき、ヒズブッラーの活動の全面的な禁止に至った。ちなみに、EUは2013年にヒズブッラーの軍事部門を「テロ組織」に指定している。また、近年では2017年にアラビア半島諸国がヒズブッラーを「テロ組織」に指定している。

評価

 ヒズブッラーは、「イスラエル(=シオニスト)とその背後にいる傲慢勢力(アメリカ、イギリス、フランスなど)への抵抗運動である」と謳い、その活動は軍事・諜報・経済・社会・文化活動、そしてレバノンでの合法的政党としての活動など多岐にわたる。同党が世界各地で営む様々な活動の一部は、非合法活動として摘発されることもある。ヒズブッラーは、現在レバノンの政府に与党として参加しており、ヒズブッラーが輩出した閣僚とイギリス政府が接触しなくなるなどの形で二国間関係にも影響が出るだろう。

今般の決定に対し、本稿執筆時点でヒズブッラーからの公式な反応はない。一方、レバノンのバーシール外相は「(ヒズブッラーに対する)諸国の立場はレバノンにとって慣れ切ったものなので、今般の決定に伴う悪影響はない。領土が占領されている限り、国家の帰還や人民による抵抗運動は続く」と述べてヒズブッラーを擁護した。

ヒズブッラーは、イスラエルとの長年の対峙を経て軍事力やレバノン政界での勢力を強化してきた。近年では、シリア紛争に政府側に立って介入するなど、「レバノンにおける抵抗運動」としての性質を超える活動も目立つ。今般のイギリスの決定も、東地中海地域に拡大するヒズブッラーの軍事活動を問題視したものと思われる。また、ヒズブッラーに対する各国の態度は、アメリカ・イスラエルを中心とする諸国とイランとの対決との文脈で解しうるものでもある。その一方で、レバノンにとって、ヒズブッラーは長期的には武装解除すべき存在として政治的対立の火種であるものの、イスラエルによるレバノンの領域や権益の侵害に対し、軍、国連、国際社会が何の抑止力も発揮できない現実の中、イスラエルに対する同党の「抵抗」に一定の意義を見出さざるを得ない。ヒズブッラーの存在をアメリカとイランとの対立のような文脈でのみ認識することは、レバノンの領域・権益の侵害という事実を黙殺する発想につながりかねない。

(主席研究員 髙岡 豊)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP