№104 レバノン:新内閣が発足
2019年1月31日、レバノンで新内閣の閣僚が任命された。同国では、2018年5月に実施された国会議員選挙以降、諸政治勢力が組閣についての協議を続けていたが、合意に達するまで長期間を要した。新内閣の閣僚は以下の通り。
役職 |
氏名 |
主な経歴など |
首相 |
サアドッディーン・ハリーリー(サアド・ハリーリー) |
ムスタクバル潮流。2005年6月-2009年6月-2018年5月-国会議員;2009月11月-2011年6月首相;2016年12月-2019年1月-首相 |
副首相 |
ガッサーン・ハーズバーニー |
レバノン軍団。2016年12月-2019年1月副首相兼保健相;2019年1月-副首相 |
内相 |
ラヤー・ハサン |
女性。ムスタクバル潮流。初の女性内相。 |
外相 |
ジュブラーン・バーシール |
自由国民潮流。2008年7月-2009年11月通信相;2009年-2011年-2014年2月エネルギー・水相;2014年2月-2016年12月-2019年1月-外相;2018年5月-国会議員 |
国防相 |
イリヤース・ニクーラー・ブーサアブ |
自由国民潮流。2014年2月-2016年12月教育相;2019年1月-国防相;2018年5月-国会議員 |
財務相 |
アリー・ハサン・ハリール |
アマル運動。1996年9月-2000年9月-2005年6月-2009年6月-2018年5月-国会議員;2003年4月-2004年10月農業相;2011年6月-2014年2月保健相;2014年2月-2016年12月-2019年1月-財務相 |
エネルギー・水相 |
ナダー・ブスターニー |
女性。自由国民潮流 |
司法相 |
アルビール・シルハーン |
自由国民潮流 |
教育・高等教育相 |
アクラム・フサイン・シュハイブ |
進歩社会党。1996年11月-1998年12月環境相;2010年?月-2011年?月移民相;1992年-1996年6月-2000年9月-2005年6月-2009年6月-2018年5月-国会議員;2014年2月-2016年12月農業相 |
文化相 |
ムハンマド・ダーウド |
アマル運動 |
通信相 |
ムハンマド・シュカイル |
ムスタクバル潮流 |
保健相 |
ジャミール・ジャバク |
ヒズブッラー |
公共事業・運輸相 |
ユースフ・フィニヤノス |
マラダ潮流 |
工業相 |
ワーイル・ワフビー・アブー・ファーウール |
進歩社会党。2005年6月-2009年6月-2018年5月-国会議員;2008年7月-2009年11月-2011年6月国務相;2011年6月-2014年2月社会問題相;2014年2月-2016年12月保健相;2019年1月-工業相 |
青年・スポーツ相 |
ムハンマド・フナイシュ |
ヒズブッラー。1992年-1996年-2000年-2005年-2009年-2018年5月国会議員;2005年7月-2008年7月エネルギー相;2008年7月-?労働相;2011年6月-2014年2月国務相(行政改革担当);2014年2月-2016年12月国務相(国会担当);2016年12月-2019年1月-青年・スポーツ相; |
移民相 |
ガッサーン・アターッラー |
自由国民潮流 |
社会問題相 |
リシャールド・クユムジヤーン(リチャード・クユムジヤーン) |
レバノン軍団 |
農業相 |
ハサン・ルカイス |
アマル運動 |
環境相 |
ファーディー・ジュライサーティー |
自由国民潮流 |
労働相 |
カミール・アブースライマーン |
レバノン軍団 |
観光相 |
ウワーディース・ディクラーン・ケドニヤーン |
ターシュナーク党。2016年12月-2019年1月-観光相 |
情報相 |
ジャマール・サリーム・ジャッラーフ |
ムスタクバル潮流。2005年6月-2009年6月-2018年5月国会議員;2016年12月-2019年1月通信相;2019年1月-情報相 |
経済相 |
マンスール・バティーシュ |
自由国民潮流 |
大統領府担当相 |
サリーム・ジュライサーティー |
大統領枠。2016年12月-2019年1月司法相;2019年1月-大統領府担当相 |
議会担当相 |
マフムード・クマーティー |
ヒズブッラー |
避難民担当相 |
サーリフ・ガリーブ |
大統領枠 |
女性担当相 |
ヴァイオレット・ハイルッラー・サファディー |
女性。ムスタクバル潮流 |
行政改革担当相 |
マイ・シドヤーク |
女性。レバノン軍団 |
国務相 |
ハサン・ムラード |
大統領枠 |
テクノロジー・投資担当相 |
アーディル・アフユーニー |
ムスタクバル潮流 |
評価
2004年以来、レバノンの政局はハリーリー首相のムスタクバル潮流、レバノン軍団、進歩社会党などからなる反シリア的なブロックと、アウン大統領の自由国民潮流、ヒズブッラー、アマルなどの親シリア的なブロックとの角逐に特徴づけられてきた。レバノンでは、各宗派の公正な代表権を確保するため、政治の運営は全会一致を原則としている上、重要事項を多数決で決定するためには議会・閣議で3分の2以上を確保しなくてはならない。現在の議会・内閣の構成も、主要な政治連合が事実上の拒否権である3分の1を確保する趨勢に大きな変化はない。
レバノンでは、大統領の空位(2014年5月~2016年10月)、国会議員選挙の延期(2013年~2018年)などの政治空白が続いてきたが、国会議員選挙を経た組閣により、制度上はようやく空白状態が解消した。しかし、現在の各政治勢力間の勢力バランスを見る限り、重要な問題について迅速かつ効果的な決定・対応ができるかは心もとない。シリア紛争に政府側勝利という一定の方向性が見えている中、シリアの情勢に強く影響されるレバノンの政局でも、シリア紛争の展開・紛争の主要な当事者の動向を模様眺めするかのような運営となる可能性が高い。このため、経済改革、汚職対策など、国内でも不満が募っている懸案や、シリアとの関係をどうするのかという問題への対応は遅れがちになるものと思われる。
(主席研究員 髙岡 豊)
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