中東かわら版

№100 イスラエル:世耕弘成経済産業相のイスラエル訪問

 1月15日、イスラエルを訪問中の世耕弘成経済産業相は、コーヘン経済産業相と会談し、両国のITを用いた医療(E-Health)分野で協力していくことで合意した。訪問には日本企業100社の幹部200人が同行した。なお、OKI(沖電気工業)がイスラエルの医療機関(Sheba Medical Center)の「ARC Innovation Center」と認知症の研究を進めることで合意した。

 近年のイスラエルへの日本の経済ミッションとして、2014年の日本経済団体連合会によるミッション、2015年の安倍首相訪問に同行したミッション(日本企業の幹部約100人)、2016年の経済同友会によるミッションなどが挙げられる。また、2018年5月の安倍首相のイスラエル訪問でも日本企業8社の代表者が拡大首脳会談に参加した。こうした両国の経済関係の制度的な保護措置として2017年2月、日本・イスラエル投資貿易協定が署名され、同年10月に有効となっている。

 

 

評価

 

 日本とイスラエルの2国間関係は、従来から経済分野での関係を深めており、また日本の経済界とイスラエルの関係も深い。1994年にイスラエルのラビン首相が訪日した時に科学技術協力協定が交わされて以降、両国の経済関係は発展し、2005年にオルマート副首相兼産業・貿易・労働相が訪日して以降の時期には、両国のハイテク、ベンチャー企業の進出、ビジネス・フォーラムの開催などが実現した。

 

 また、2008年にオルメルト首相が訪日した時には、両国のビジネスフォーラムが開催、経済界との懇談会が行われている。さらに、2010年のリーベルマン外相の訪問では、代替エネルギーや宇宙分野での協力へと関係の幅が一層広がった。そして、こうした関係は、2014年のネタニヤフ首相によって経済のみならず、安全保障分野での協力へと拡大した。この時の会談では、国家安全保障局間の意見交換開始やサイバーセキュリティ分野での協力などが合意された。今回の訪問では医療分野での関係発展が成果として挙げられており、今後も両国関係は発展していくと思われる。

 

 一方、中国とイスラエルも科学技術分野での関係を強化している。2013年にネタニヤフ首相は初めて中国を訪問し(この前は2007年のオルマート首相の訪問)、ハイテク団地の視察、現地の起業家と会談し、自由貿易協定の調査の実施で合意した。2018年10月には、イスラエルは中国とイノベーション、教育、テクノロジー、生命科学、農業分野、E-Healthなどで合意を交わしている。他方で、中国はイスラエル国内にあるスタートアップ企業への投資や技術獲得への関心が非常に高いと言われるが、イスラエルで展開する中国人のスタートアップ企業は、事業が成功した後に本国に戻ってしまう事例が多いと言われている。こうした中国の動きに対して、1月10日付で、アルガマン総保安庁長官は、中国によるイスラエルへの投資がインフラと投資の面で、自国の安全保障上の脅威に成り得ると警鐘を鳴らしている。

 

 このように中国のイスラエルにおける関心分野は日本と似ており、その動きはイスラエル国内で政治的な動きとして捉えられている。このことは、現地で日本企業が事業展開する上で中国企業と衝突するリスクになり得るだろう。むろん、イスラエル、日本の両政府はこうしたリスクを極力回避するよう努めるだろうが、日本の企業がそうしたリスクを負う可能性には留意すべきだろう。

 

(研究員 西舘 康平)

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