中東かわら版

№94 イラン:ファーウェイCFOの拘束とイラン・中国関係の動き

 12月1日、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が米国の要請によって滞在中のカナダで拘束される事件が発生したが、その拘束は対イラン制裁違反が口実とされている。しかし、イラン国内において本事件は通常の国際ニュースレベルの扱いであり、特に大きな議論が起こっている様子はない。現時点では公式のコメントなどもなく、7、8日にテヘランで開催された第2回6カ国国会議長会合におけるザリーフ外相の演説で触れられた程度であった。

 一方で、対イラン制裁を受け、イラン・中国関係にも動きが見られている。12日、中国石油天然ガス集団(CNPC)が南パールスの天然ガス田における開発プロジェクトから撤退するとの報道が流れた。現時点でイラン石油省からの正式なコメントは出ていない。

 

評価

 今般の事件は、米国による対イラン制裁違反が罪状とされている。だが、それはあくまで口実であり、今年7月より始まった米中貿易戦争の一局面と考えられる。11日には両国の通商閣僚が緊急の電話会談を行い、摩擦のきっかけとなっていた自動車関税を元に戻す方針を検討するなど、米中間での交渉が活発化している様子が伺える。

 本事件のような、二国間関係の悪化に個人の逮捕・拘束が絡む事案は、今夏深刻化したブランソン牧師とギュレン師を巡る、トルコ・米国関係の悪化を想起させる。個人に関する事案は衆目を集めやすく、制裁や紛争の口実とされやすい。また、米国の独自制裁の違反を理由とした拘束について、国際法上の根拠があるのかも考えねばならない。これまでは対イラン制裁に違反した場合、罰金の支払いが命じられることが多かった。今般の拘束にいたる経緯や法的根拠を明らかにすることは、今後のイラン制裁との向き合い方にも関わる重要事項であると考えられる。

 一方でイラン・中国の二国間関係は接近を続けてきた。イランは制裁下での対中関係の強化を見据え、今年の初めには経済関係に強いヘンマティ氏を中国大使に内定していた(同氏は中央銀行総裁に任命されたことで急遽内定取り消しとなった)。そして、8日に任命されたケシャーヴァルズザーデ新大使も、最近まで外務省の米国局長を務めていた実力派の人物である。これらの人事からも、イランが中国を重要視していることが伺える。

 ただ、両国の友好については温度差がある。制裁下で生き残りをかけているイランと異なり、中国にとってイランは全精力を傾けるべき「核心的利益」ではない。このタイミングでの南パールスガス田撤退の報が流れた背景には、中国政府のリスク計算があったのではないかと考えられる。CNPCは今次、北アーザーデガーン油田とマスジェド・ソレイマーン油田からは撤退しないとも報じられている。しかし、南パールスガス田の開発はイランのエネルギー戦略上の重要事項であったため、噂が流れるだけでもイラン側には痛手となる。また、11月26日に第11フェーズがCNPC主導となると発表されたばかりであり、イラン側に遺恨を残すことになりそうだ(12日付、国営テレビにおけるザンゲネ石油相のインタビュー)。

 とはいえ、制裁下でエネルギー資源に関わる開発が停滞することは予見されていた事態である。また、中国の「一帯一路」構想に基づいた影響力拡大の観点から見れば、現在中国企業の進出が目立つインフラや交通網整備のプロジェクトも同様に重要となる。全体としてみれば、両国関係は多少の不信感は残しつつも、良好な状態を保つことになりそうだ。対イラン制裁に絡み、個人の拘束や大型プロジェクトに係る事案が見られるようになってきた。大きなニュースの背後で進行している重要な動きを見逃さないようにしたいところだ。

(研究員 近藤 百世)

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