中東かわら版

№87 イラク:アメリカの対イラン制裁回避を模索

 2018年11月15日付『シャルク・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)は、イラク政府筋2人の発言を基にアメリカによる対イラン制裁の適用を回避するためのイラク政府の試みとして、要旨以下の通り報じた。

  • イラク政府は、イラン産のガスを輸入することについてアメリカの同意を得ようと努めている。イランのガスはイラクの発電所で使われるもので、イラクがイランに代わるガスの供給元を見つけ出すまでに時間が必要である。
  •  アメリカ政府が提示した、イランのガスの輸入停止までの猶予期間45日は、まったくもって不十分である。猶予期間後にイランからのガス輸入をやめれば、イラクは本当の電力危機に見舞われるだろう。アメリカも、イラクにとってイランのガスの必要性が重大であることは理解している。
  •  イラク政府はアメリカに対し、ガス輸入の代金をドルで支払うのではなく、イラク産の食品や人道物資を提供するとの条件で、45日間の猶予期間後もイランのガスを輸入し続けることを容認するよう求めている。イラン側は、この条件を受け入れた。

 

評価

 アメリカによる対イラン制裁の再開・強化は、対象となるイランだけでなく、日本を含む世界各国に甚大な影響を与えつつある。中でも、イランに隣接し、様々な面で同国に依存するイラクにとって、イラン産の天然資源の輸入を止めざるを得ないことは重大な問題である。本文中にもあるように、イラクの発電所の中にはイラン産の天然ガスによって操業しているものもあり、この燃料が輸入できなくなればイラクの電力事情、そして人民の生活水準に悪影響が出ることが予想される。イラクにおいては、毎年夏場に電力供給の不足を理由とする抗議行動が恒例のできごととなっており、2018年はバスラで政府機関・石油施設・外交使節への襲撃を伴う大規模な抗議行動も発生した。

 その一方で、イラク自身も世界有数の産油国でありながら、発電に必要な施設や天然資源を国内で賄うことができないという、アメリカの対イラン制裁とは無関係の課題を抱えている。「イスラーム国」との戦いや原油価格の下落によって財政上の困難を抱えていたとはいえ、長年社会資本の整備を怠ってきたイラク政府にも問題点は多い。また、電力の浪費や公共サービスの受容についての費用負担意識の欠如など、イラク社会の側にも顧みるべき点があろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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