中東かわら版

№86 イスラエル・パレスチナ:リーベルマン国防相が辞任を発表

 11月13日、ハマース等のパレスチナ諸派はイスラエルとの停戦で合意したと発表した。イスラエル側からは公式の発表がなかったが、イスラエル筋によれば、作戦を展開する自由を留保するとした上で合意の成立を認めた。この事態を受けて11月14日、リーベルマン国防相が辞任を発表した。辞任はネタニヤフ首相に公式の書類が提出されてから48時間後に受理される。辞任に際して同氏は、ガザ地区での停戦はテロへの屈服であると抗議した。また、もし今の職位に残れば、南部の住民に見せる顔がなく、また辞任は「イスラエル我が家」が与党の連合から離脱することを意味すると発言し、連立政権からの離反を示唆した。

 辞任の発表に関して、パレスチナ諸派は要旨以下の声明を発表した。

・パレスチナ解放人民戦線(PFLP)の政治局:国防相の辞任は、抵抗の戦略的な力がイスラエルの国内情勢に影響し始めたことを意味する。

・パレスチナ解放民主戦線(DFLP)の政治局:辞任は同氏が国防相に就任に際してイスラエルの有権者に約束した公約、イスラエルの抑止力の威信を回復できていないという壊滅的な失敗である。*辞任はハーン・ユーニスでの作戦(11月13日付『中東かわら版』No.83を参照)の敗北からの責任逃れである。

・イスラーム聖戦:辞任は抵抗の意思の勝利、占領者との対峙における我らが人民の強固さの勝利である。

・クドゥス中隊:我々の抵抗は敵方を軍事的に撃退するだけでなく、敵の政治的な思惑をも混乱させた。

 

評価

 

 リーベルマン国防相はイスラエル・ハマース間の停戦を阻止する形で辞任を表明した。またこの発表によりイスラエルの閣僚内でハマースとの停戦をめぐり対立があったことが露呈した。11月13日付の『ハヤート』紙は、観測筋の意見として、ハーン・ユーニスへの潜入作戦は閣僚内の対立を解消する見世物の性格が強く、計画上の作戦規模は限定されていたと報道している。また、同日付の『ハアレツ』紙は、停戦に対しイスラエルの閣僚のうちガラント住宅・建設相、ベネット教育相、シェケド法務相、エルキン・エルサレム担当相が反対していると報じている。

 さらに、イスラエル社会でもハマースとの停戦は拒否されている模様である。14日には、ガザから飛来するロケットによって最大の被害を受けたガザ地区周辺の入植者が、ガザに入るトラックの通行を妨害した。また、ガザ地区東部の入植地などでは数百人規模のデモが発生している。

 他方、パレスチナ諸派はイスラエルとの停戦が進むことを前提に、リーベルマン国防相の辞任を自派の勝利と主張し、あまつさえイスラエル国内への関与に成功したと標榜している。だが、大局的にみれば、現時点でガザ地区の苦境が改善する見通しは立っていない。さらに停戦どころか、イスラエルがガザ地区に対する措置を再評価する可能性もあることに鑑みれば、パレスチナ諸派にとっては、今般の衝突を受けたリーベルマン国防相の辞任から得られる利益は乏しいと思われる。

(研究員 西舘 康平)

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