中東かわら版

№85 イラン:米国による対イラン制裁と日本

 11月5日に米国による対イラン制裁が発動され、同日イラン産原油の取引について、日本を含めた8カ国が180日の制裁免除措置がとられると発表された。これを受けて、世耕経済産業相は、今般の措置は米国が日本の事情を汲んだものと考えられると述べた(6日、閣議後の会見)。一方で、今後の日本におけるイラン産原油の輸入量についてはコメントせず、各企業の判断によるのではないかとの見解を示している。

 今般の報を受け、石油元売り大手JXTGホールディングスは、具体的な計画はないと前置きした上で、イラン産原油の輸入再開を検討中であると述べた(6日、決算会見)。また、富士石油も制裁免除に好意的な感触を示している。他方、国際石油開発帝石(INPEX)は、イラン南部アーザーデガーン油田の入札参加については、依然として厳しい状況にあると述べた(7日、決算会見)。

 2015年のイラン核合意(JCPOA)成立を機にイラン・ビジネスを展開していた本邦企業は、今年5月8日の米国による離脱以降、米国かイランかの二択を迫られ、厳しい状況に追い込まれてきた。現状米国を選択せざるを得ないが、駐日イラン大使館がツイート(9月4日)したように、米国の制裁に追従することは、イランとの間に将来的な禍根を残すことになる。そのため、各企業は、日米関係、更に言えばトランプ政権との関係を考慮しつつも、イランとの関係を絶たずにいられる方法を探っている状態だ。

 

評価

 イランは人口約8,000万人を抱える中東有数の市場であり、投資・取引先として大きな魅力がある。そのため、JCPOAの成立を契機に各国企業が挙ってイランに進出し、本邦企業の多くもイラン・ビジネスに乗り出した。それが、今般の騒動によって、取引停止あるいは早期引き揚げに追い込まれている。INPEXの応札見送りも、こうした文脈の中で下された判断と見られる。だが、イランはペルシア湾岸に豊富な油田・ガス田を有しており、更には先般境界が8割方確定したカスピ海における開発も控えている。本邦企業はこれらの開発事業への参入を企図していた。今般の制裁によってそれが不可能となったことは、企業に留まらず、日本の将来にとっても大きな痛手となるだろう。

 たしかに、今般の石油制裁免除については外交努力が一部実を結んだと見て良い。日本外務省は、イラン産原油の輸入禁止に対する措置を巡って4度に渡る日米協議を行ってきた。しかし、その成果が180日の制裁免除に留まったことは、日本のビジネスやエネルギー事情に鑑みれば手放しには喜べない。また、欧米諸国のように、米国の多国間主義を無視するような言動を表立って諫められなかった点についても、日本の立場の難しさが垣間見える。

 中東諸国は総じて親日的であるといわれるが、中でも、イランは有数の親日国家といってよい。更に日本とイランは来年で外交関係樹立90周年を迎える。だが、企業・外交の努力に下支えされてきたこれまでの親日ムードが、米国によるJCPOA離脱と制裁発動に対する日本の対応によって変化しつつある。しかし、イランの日本に対する期待は、まだ完全に失われたわけではない。2013年のロウハーニー政権発足以来、両国は毎年国連総会に併せて首脳会談を開催してきた。米国とイランとの対立が先鋭化した今年も会談が行われており(9月26日)、イランが期待を繋ぐ一因となっている。イラン側の親日感情、そして日本側のイランに対する理解を途切れさせない努力が、米国の制裁下においても関係を保持していく鍵となるだろう。

 今後最も重要となるのは、外交努力である。特に米国と同盟関係にありながらも、長くイランとの友好関係を育んできた日本は、両者をつなぐ稀有な存在である。そのため、国際社会からも日本外交へは期待が寄せられている。他方、企業側については、来るべき制裁解除のタイミングに備えて、情報を常にアップデートし、事情に通じておくことも重要となってくるだろう。米国による対イラン制裁によって、イランのみならず国際社会も試練の時を迎えている。

(研究員 近藤 百世)

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