中東かわら版

№84 シリア:復興に向けた対照的な動き

 2018年11月13日付『ハヤート』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)は、「復興のケーキは体制の同盟者に」と題し、シリアの復興について同国の政府高官の発言を要旨以下の通り報じた。

 

*紛争後の段階での政府の方針は、(シリアの)再建事業でシリア人と同盟諸国を優先するということだ。敵対的な諸国には分け前はないだろう。

 *シリア人こそが、自分たちの国の復興の第一の当事者である。テロリズムや諸般の状況によって国外に出ざるを得なかった実業家たちに対し、生産活動の再開に貢献するための帰国を呼びかけている。国外のシリア人、特にエジプトからは複数の訪問団がシリアでの活動再開のためにシリアを訪れている。

 *最近シリアは東方志向をとっている。なぜなら、かつてシリアにとって第一の経済的パートナーだった西側諸国が、もはや信用に足らなくなったからだ。EU諸国は、シリアへの敵対で一体なわけではない。複数のヨーロッパ企業がシリア国内での投資を要望しており、その中にはスペインやイタリアの企業がある。

 

 一方、『ワタン』(シリアの民間日刊紙。親政府)は、反体制派筋の情報として、民兵諸派・ジハード組織諸派が占拠する地域やトルコによる占領地の住民の生活が悪化していると報じた。それによると、「シャーム解放機構」(シリアにおけるアル=カーイダ。旧称「ヌスラ戦線」)やその他武装勢力が主要な通過地点を占拠し、通過地点を閉鎖したり、通過に際して賄賂をとったりするため、物価が上昇している。同様の報道は『ハヤート』紙(11月10日付、13日付)にもみられ、「シャーム解放機構」らによって封鎖状態に陥っている地区が存在する。また、「シャーム解放機構」が配下の業者を通じてイドリブ県に持ち込まれる燃料を独占し、同地では燃料価格が高騰している。

 

評価

 シリア政府が復興事業の権益を同盟国にしか配分しないとの見通しはかねてから周知のことであり、今般の高官の発言は復興事業が実施段階に入る時点で、そうした見通しを裏付けたものである。しかし、シリアやその同盟国が復興に必要な技術や資本を充足させられないこともほぼ確実であり、シリア政府は今後も紛争によって国外に流出した事本や人材の呼び戻しや、西側企業の資本・技術の誘致という課題に直面し続けるだろう。

 復興事業や経済活動の再開で具体的な動きが出ている政府の制圧地とは対照的に、イスラーム過激派を主力とする「反体制派」が占拠する地域では依然として武装勢力が細部に至るまで市民生活を圧迫する状況のままの模様である。「シャーム解放機構」がイドリブ県に持ち込まれる燃料を独占して市民の生活を圧迫する理由は、同地への燃料の供給源であるユーフラテス川左岸地域を占拠するクルド民族主義勢力に対し、トルコ軍が攻撃をかけるとの観測が強まっていることにある。クルド民族主義勢力は、ダイル・ザウル県でも「イスラーム国」との交戦も続けており、彼らが占拠する地域が復興・再建が可能なほどに安定しているとは言えない。現地の住民の生活水準や、復興事業の進捗状況、これらに対するシリア政府の方針は、シリアへの支援や投資に関与する機関などにとって重要な情報となろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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