中東かわら版

№83 イスラエル・パレスチナ:イスラエル軍の攻勢に対するパレスチナ諸派の反応

 11月11日、民間人に扮してガザ地区に潜入したイスラエル軍の特殊部隊とハマースがガザ地区のハーン・ユーニスで衝突し、パレスチナ側で7名死亡、イスラエル軍兵士1名が死亡した。この事件を受けて、11日から12日にかけてガザ地区からイスラエルに向けて300発以上のロケットが飛翔し、一部は住宅やバスに着弾した。これによりイスラエル人1名死亡、53名が負傷した。その対応として、イスラエル軍はガザ地区のハマースやイスラーム主義組織の拠点70カ所を爆撃した。ガザ保健省によれば、パレスチナ側で3名(内2名はパレスチナ解放人民戦線要員(PFLP))が死亡した。

今般の事件に対するパレスチナ諸派の反応は以下の通り。

  •  ハマース:*我々は、抵抗するパレスチナ人としてガザ地区の住民の側に立ち、シオニスト攻勢、占領者のテロリズムに対峙している。*ガザ地区は一人で戦わない。シオニスト攻勢に対する一つの戦列、抵抗の支柱としてのパレスチナの内外におけるパレスチナ人民の統合を強調する。*アクサー・チャンネルに対する攻勢を非難する。

  • イッズッディーン・カッサーム旅団とイスラーム聖戦の軍事部門クドゥス中隊パレスチナ抵抗諸派合同室の名義で同じ内容の声明を各自が発行した):*ガザ地区南部ハーン・ユーニスにおけるシオニストの計画を失墜させた。*この計画とその実施に伴う諸結果の全責任はイスラエルにある。*我々は占領者を抑え込み、殉教者の忠義を守り、彼らの血の報復ができる。*今般の計画の失敗は、抵抗が人民の希望の星であり、彼らの土地の保護者である新たな印である。
  • パレスチナ解放人民戦線(PFLP):*ハーン・ユーニスでのシオニスト勢力との対決で死亡した殉教者を追悼。*敵方のシオニストは力、銃撃といった包括的な抵抗という言語しか理解しない。*お前たちは協定、覚書を守らず、イスラエル・ハマース間の情勢鎮静化に関する契約にさえ関心を払っていない。シオニストは常に我らが人民とその抵抗との実存的、運命的な闘争の中にいることを示している。*統一と(ファタハ・ハマース)分裂を早期に終わらせること、民族的戦略を国民レベルで合意することが重要だ。
  • パレスチナ解放民主戦線(DFLP)の軍事部門パレスチナ民族抵抗大隊:*ガザ周辺の入植地に20発のロケットを発射した。*我々の人民に対する攻勢を続けるなら、多くの急襲が敵方のシオニストを待ち受けている。*あらゆる方法と能力を用いて占領者を抑え込む必要性を強調。
  • イスラーム聖戦:*ハーン・ユーニスでのイスラエル軍との衝突について、敵方の攻勢に挑むムジャーヒドゥーンを賞賛。*ハーン・ユーニスの攻勢に対する対応の継続を強調する。*このシオニストによる作戦が失敗した後、抵抗諸派は今般の事件で発生した権利侵害に対し対応していく。

 他方、イスラエルのネタニヤフ首相は、第1次大戦終結100年記念式典に参加するためにパリを訪問していたが、トランプ大統領、プーチン大統領と会談した後に帰国した。11日には治安閣議を開いている。他方、アッバース大統領は当初の予定通り12日にクウェイトを訪問し、そこで地域諸国、非アラブ諸国の首脳と電話で会談し、国際社会の関与を要求している。

評価

 

 今般の事態は、イスラエルとハマース間の鎮静化に向けて具体的な動きが見られ始めた時期に発生した。毎週金曜日、ガザ地区とイスラエル間の境界線上で帰還の行進が行われていたが、9日金曜日、ハマースが組織する帰還の行進は中止され、爆弾風船もガザ地区から飛ばされなかったとされている。さらに同日、イスラエル承認の下で、カタルの資金がガザ地区の職員の給与として支払われ始めた(今回は1500万ドル、向こう6カ月で9000万ドル)。また同日、イスラエルの政策・治安閣議が、ハマースが捕えているイスラエル軍の捕虜解放を含め、今後どのように鎮静化を進めるかについて議論している。

 ガザ地区のパレスチナ諸派は、イスラエルとの緊張を緩和することで、上記のような利益を実際に得ている状況にある。そのため、イスラエルとの軍事衝突の可能性を現時点で高める動機は低いはずである。それでも数百発に及ぶロケットがガザ地区からイスラエルに飛翔した理由として、パレスチナ諸派は、自派が軍事的な行動を自制したのに対し、イスラエルがハマース幹部の暗殺を試みたため、これに相応しい攻撃をすべきだと考えていることが挙げられるだろう。

 全体としてパレスチナ諸派は、ハーン・ユーニスで殉教したパレスチナ人7名に対する報復を断言してはいるが、その後の対応についてはイスラエルの出方次第という姿勢を取っているように見える。

 またハマース、さらにはファタハに与するパレスチナ人民解放戦線が、それぞれの言い回しでパレスチナ人民の統合や戦列の統一を訴えている。これは現在のハマースとファタハの和解の問題に繋がっていると思われる。ハマースは、抵抗を軸にパレスチナ人民の統合を呼びかけている。他方、PLOに加わるパレスチナ人民解放戦線は、イスラエルの攻勢に対するファタハ・ハマース間の分裂の解消、統一を主張している。これは、ハマースによるガザの実効支配を終わらせ、民族統一政府の樹立を狙うファタハの主張と一致する。この点、今般の攻勢が、両派の和解に影響すると考えることもできる。

(研究員 西舘 康平)

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