中東かわら版

№80 イラン:米国による対イラン制裁第2弾が発動

 米東部時間11月5日午前0時(日本時間同日午後2時)過ぎ、米国による対イラン制裁の第2弾が発動された。ポンペオ国務長官は同日の会見において、今般の制裁が、トランプ政権が発足して以来最も厳しいものになるとして、5月に公表した12項目の要求が実現するまでイランに圧力をかけ続けると述べた。また、原油取引については、中国、インド、イタリア、ギリシア、日本、韓国、台湾、トルコの8カ国に対して6カ月間の猶予期間を認めている。続いてムニューシン財務長官は、今般の制裁では700以上の個人、団体、航空機、船舶が制裁対象となったと述べ、本制裁を回避しようとするあらゆる企業・組織にも制裁を科すとした。

 同日、米国財務省ホームページで制裁の概要が公開され、特別指定国民(SDN)リストも更新された。今次の制裁対象の中で、特に広範な影響を及ぼすとされているものは下記の通り。

・イランのエネルギー部門との取引

・イランの石油関連取引(NIOC、NICO、NITC)*石油製品、石油化学製品含む

・港湾オペレーター、海運、造船部門との取引(特にIRISL、SSLとその関連会社)

・保険引受や保険金の支払い、再保険の提供

・イラン中央銀行及びSDNリストに指定されている金融機関と外国金融機関との取引

・イラン中央銀行やその他イランの金融機関への電信サービス

 

評価

 今般の制裁は、イランのみならず国際的にも大きな影響を及ぼすことになる。問題の本質は、米国が国際社会を巻き込む形で制裁を行い、あらゆる方面からイランの締め付けを行っている点にある。例えば、国際銀行間通信協会(SWIFT)がイランにある複数の銀行を国際送金網から締め出したのはその典型である。これによりイランの銀行のほとんどが国際的な決済ネットワークから除外され、国際商取引が事実上不可能となった。こうした問題は皆、米国の圧力から生じているものだ。他にも、二次制裁を恐れた外国企業がイラン市場から相次いで撤退していることで、国内外に莫大な規模の損失が生まれていることも問題視されている。

 期待されていた原油取引の免除に関しても、6カ月の延期程度に留まり、先行きは不透明だ。ただ、イランの主要な取引相手国である中国とインドが半年間の制裁を免れたことは、イランにとり僥倖であったといえよう。しかし、日本や韓国など、既にイラン産原油の取引を停止・縮小で調整していた国にとっては、今般の決定は微妙なものとなった。

 また、トランプ政権からイランに向けて発せられる挑発も物議を醸している。トランプ大統領は、制裁に先立つ2日、米国の人気ドラマシリーズ「Game of Thrones」(HBO)をパロディー化した「SANCTIONS ARE COMING(制裁来たる)」の画像を公開した。また、ポンペオ国務長官も、5日に制裁に関する3つの連続ツイートを行った。最後のツイートはペルシア語でなされ、先日、国際司法裁判所(ICJ)で違法とされた、食料、農産物、医薬品、医療機器といった人道に関する物資については制裁対象に含まれないとした。こうした過激な言動は、6日の米中間選挙へ向けたパフォーマンスの一環であると見られる。5日の会見時にムニューシン財務長官が明言したように、米国のJCPOA離脱はオバマ前大統領の業績の否定である。加えて、イランへの制裁は、前年の北朝鮮に対する成功をそのままトレースしようとしたに過ぎない。しかし、イランは北朝鮮とは規模も経験も全く異なる地域大国である。

 米国の度重なる制裁や挑発行為に対し、イランは抗戦のかまえを見せている。4日、ロウハーニー大統領は経済財務省の局長会議に出席し、米国の制裁を克服するために経済政策を強化する意向を再度確認した。また、ザリーフ外相も米国のこうした行いは自身を孤立させることに繋がるとツイートしている。イランの主張は初めから一貫しており、米国がイラン核合意(JCPOA)を一方的に離脱して制裁を再開する理不尽さを非難し、合意への復帰を対話の最低条件としている。

 イランには、現体制が発足してより40年近く、常に複数の制裁下にありながらも地域大国としての体裁を保ってきた自負がある。そして、トランプ政権の交代まで持ちこたえれば望みを繋ぐことができるとも考えている。そのため、米ドルを介さない取引体制の構築など、細々とした対策を重ねる耐乏生活の道を選択した。ロウハーニー政権は、現状に至ってもなお国際協調路線を崩していない。制裁前日の4日に行われたアーバーン月13日の行進(米国大使館占拠事件記念日のデモ)も、概ね例年通りのようで、翌日以降に長引くことなく収まったようだ。国内の意見を調整しつつ外交交渉の道を閉ざさない現政権がどこまで持ちこたえられるかが、今後の鍵となるだろう。

(研究員 近藤 百世)

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