中東かわら版

№76 オマーン:イスラエルのネタニヤフ首相の来訪

 2018年10月26日、イスラエルのネタニヤフ首相がオマーンを公式訪問し、同国のカーブース国王と会談した。同首相の訪問は事前に予告・発表されたものではなかったが、公式訪問である。両国の首脳会談では、「中東和平プロセスを前進させる方策、中東に平和と安定を実現するための諸事」が議題となった。

 イスラエルとオマーンとの間には外交関係はないが、イスラエルの首相クラスのオマーン訪問については1996年に当時のペレス首相代行が訪問した事例がある。オマーンのアラウィー外務担当相は今般の首脳会談について、オマーンはパレスチナとイスラエルとの和解を助ける諸案を提起したと述べた。一方、同外務担当相はオマーンは両者の仲介の役割を果たさないと述べた。

 

評価

 ネタニヤフ首相のオマーン訪問に先立つ2018年10月22日、PAのアッバース議長がオマーンを訪問してカーブース国王と会談している。イスラエルとパレスチナの両首脳が相次いでオマーンを訪問したことは、オマーンが両者の意思疎通のためになにがしかの支援をしたことを示唆している。その一方で、現在の中東和平とイスラエル・パレスチナ関係を取り巻く状況は極めて厳しい。たとえ両首脳間で若干の意思疎通があったとしても、イスラエルによる封鎖、土地収用、両者の衝突などの諸課題を打開するような劇的な展開は予想し難い。また、パレスチナの側もPAとハマース主導の政府の決裂以来、政治体制の立て直しにほとんど進展が見られない。

 ペレス首相代行がオマーンを訪問した時期は、諸当事者が「二国家解決」を前提とし、中東和平に対しても肯定的な態度で問題に臨んでいたが、ネタニヤフ首相にそうした立場は期待できるだろうか。中東和平の進展やイスラエル・パレスチナ間の諸問題の解決につながる打開策が期待しにくい状況下で、様々な機会でイスラエルと同国と外交関係のないアラブ諸国との「外交的接触」が積み重ねられ既成事実化していくことは、中東和平プロセスやパレスチナの存在に悪影響を与える可能性すらある。

(主席研究員 髙岡 豊)

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