中東かわら版

№77 UAE:国際行事にイスラエルが公然と参加

 アブダビで開催された柔道の国際大会の「グランドスラム」に、イスラエルのミリー・レゲブ文化・スポーツ相が出席した。同大会では、出場したイスラエルの選手が優勝し、イスラエルの国旗掲揚・国歌吹奏も実現した。また、レゲブ文化・スポーツ相は28日にUAEの柔道連盟幹部の同伴を受けてアブダビの大モスクも訪問した。

 柔道大会に加え、国連傘下の国際通信連盟がドバイで開催する代表団会議にも、イスラエルが公式に参加し、同国のアイユーブ・カラ通信相が出席した。

 

評価

 UAEとイスラエルとの間には、かねてから水面下での外交上の接触があったと見られている。しかし、今般のような形で複数の閣僚が同時期に、しかも公然とUAEを訪問したことは、アラビア半島の産油国との関係正常化を図るイスラエルにとって、大きな勝利であると思われる。また、スポーツ大会の場でも、イスラエルと国交のないアラブの国での大会にイスラエル選手団が参加し、国旗掲揚・国歌吹奏を果たしたことは異例のことであろう。

 中東和平の文脈では、アラブ諸国の側は2002年のアラブ首脳会議で採択された「アラブ和平提案」にて、「全アラブ占領地からの完全撤退、難民問題の公正な解決、および東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家の樹立」などの条件を満たせば、「イスラエルとの紛争終結・和平合意、および正常な関係の構築」を行うと提案している。しかし、26日にネタニヤフ首相がオマーンを公式訪問したことと並び、今般のイスラエル閣僚複数のUAE訪問は、アラブ諸国側の統一的な原則が今や破綻したことを如実に示している。

 ネタニヤフ首相のオマーン訪問については、オマーンが「イスラエルとパレスチナの和解を支援する」との名分があったが、UAEについてはそのような名分や具体的な働きかけは一切見られない。個々のアラブ諸国にとって、中東和平やかつて言われた「アラブの大義」よりも優先すべき個別の利害関係や目標があるのは自然なことではある。その一方で、「イスラエルとの関係正常化」は、中東和平の推進やパレスチナの権利の確保という観点からはアラブ諸国側が持つ唯一の交渉材料ともいえるものである。パレスチナの情勢が悪化の一途を辿る中、イスラエルとの外交関係を公然化させるアラブ諸国が続いていることは、アラブ諸国が「関係正常化カード」を中東和平・パレスチナ人民の状況改善に役立てる見通しもないまま放棄していることをも意味する。

(主席研究員 髙岡 豊)

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