№69 ヨルダン:ラッザーズ政権が内閣改造
10月11日、アブドッラー2世国王が新内閣を任命した。9名が新たに任命され、12名の閣僚が更迭された。今次の人事変更による閣僚の顔ぶれは以下の通り(太字が新規閣僚、役職変更)。
氏名 |
役職 |
備考 |
ウマル・ラッザーズ |
首相兼国防相 |
変更なし |
ラジャーイ・ムアッシャル |
副首相兼国務相 |
変更なし |
アイマン・サファディ― |
外相 |
変更なし |
ラーイド・アブー・サウード |
水・灌漑相 |
2016年まで法相 |
ムーサー・マアーイタ |
政治・議会担当相 |
変更なし |
サミール・ムラード |
労働相 |
変更なし |
ワリード・ミスリー |
地方自治相兼運輸相 |
変更なし |
バッサーム・タルフーニー |
法相 |
2016年から上院議員 |
マジド・シュワイカ |
組織能力開発担当国務相 |
女性。通信・情報技術・公共部門改革相(2018年6月から10月) |
リーナー・イナーブ |
観光・遺跡相 |
変更なし 女性 |
ムハンナド・シャハーダ |
投資担当国務相 |
変更なし |
サミール・イブラーヒーム・ムバイディーン |
内務相 |
変更なし |
アブドゥッナーシル・ムーサー・アブー・バサル |
ワクフ・イスラーム聖地相 |
変更なし |
イッズッディーン・ムヒーエッディーン・カナークリー |
財務相 |
変更なし |
アズミー・マフムード・ムハーファザ |
教育相兼高等教育・学術研究相 |
教育相から異動 |
ムバーラク・アリー・アブー・ヤーミン |
法務担当国務相 |
変更なし |
ターリク・ムハンマド・ハンムーリー |
工業・商業・配給相 |
変更なし |
ジュマーナ・スライマーン・ガニーマート |
情報担当国務相兼政府報道官 |
変更なし 女性 |
ハーラ・アーディル・ザワーティー |
資源・鉱物相 |
変更なし 女性 |
マーリー・カーメル・カウワール |
計画・国際協力相 |
変更なし 女性 |
ムサンナー・ヒムダーン・ガラーイバ |
通信・情報技術相 |
変更なし |
ファッラーフ・アブドッラー・アムーシュ |
公共事業・住宅相 |
大ザルカー市長、ペトラ地域観光開発局局長 |
バスマ・ムーサー・イスハーカート |
社会開発相 |
女性 |
ガーズィー・マンワル・トルキー・ザバン |
保健相 |
元上院、下院議員 |
イブラーヒーム・シャハーフダ |
環境相兼農業相 |
下院議員 |
ムハンマド・スライマーン・アブー・リマーン |
文化相兼青年相 |
ヨルダン大学戦略研究センター研究員、『ガド』紙記者 |
注)上記各閣僚の詳細、その他要人情報は『要人リスト』(会員限定)より閲覧できます。 |
評価
ラッザーズ政権の組閣から僅か4カ月を経ての内閣改造となった。比較的短期間のうちに、定期的に上院、下院の議員、閣僚を入れ替えて組閣するのがヨルダン政府の特徴だが、今回の内閣改造でも9人中6人が議員や閣僚経験者である。内閣改造の背景として、同政権が組閣される直接の契機となった所得税法案の修正に関する審議が進まず、拠出を減らし対外債務を縮小するというIMFの進言に従った財政改革が進まない中で、政権に対する評価が低下したことが挙げられるだろう。9月に「NAMA Strategic Intelligence Solution(アンマン)」が実施した世論調査では、ラッザーズ政権がムルキー政権と変わらないと答えた回答者が増加したと報告されている。財政改革以外に国民からの評価を下げた理由として、政府による汚職対策が功奏していないことが一つ考えらえる。ラッザーズ政権とアブドッラー2世国王は、所得税法の改正を通じた経済改革で国民に負担を強いる前に、汚職の根絶、国家機関の合理化、富める者からの徴税を訴えてきた。この流れの中でアブドッラー2世国王の叔母の夫であるワリード・クルディーによるリン塩酸採掘国営企業との入札を巡る汚職や国内のたばこ製造御者による違法な輸出が取りざたされるようになった。だが、双方の事件は訴訟や逮捕に繋がっておらず、汚職対策の効果が疑問視されてきた。
他方、所得税修正法案は第1読会が9月末に終わり、現在は経済・投資委員会に付託されている。法案は委員会で審議されたのち国会で議論、採択される手続きを経るため、議会の手続き上、法案が可決されるにはもう少し時間を要するだろう。もっとも、政府にとっての肝要は国民の負担が実際に増えることをどう社会に納得させ、デモを抑えるかである。国民の理解が得られないまま可決されれば、6月と同じように各地で抗議デモが発生する可能性があるだろう。政府としてはこうした事態を避けるために、今回の内閣改造を生かして、いかに財政・経済問題に真剣に取り組んでいるかを国民にアピールする必要があることから、今後はそうした政府の意向が報道ベースでも強まると思われる。
(研究員 西舘 康平)
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