№62 パレスチナ:イスラーム聖戦機構(PIJ)が指導部を改選
2018年9月28日、「イスラーム聖戦機構(PIJ)」は組織内選挙により書記長と政治局を改選したと発表した。選挙は、ガザからの1000人(政治部門の者200人、軍事部門の者200人、元政治犯・古参活動家200人を含む)の有権者、ガザから追放されたヨルダン川西岸地区在住の元政治犯、在外の活動家、ガザの指導部らが推薦した有権者の投票によって行われ、PIJの発表によると投票率は99.3%に達した。選挙の結果は以下の通り。
書記長:ジヤード・ナッハーラ
政治局員:ユースフ・ハサーイナ(ガザ)、ワリード・キタティー(ガザ)、ムハンマド・ハミード(ガザ)、ナーフィズ・アッザーム(ガザ)、ハーリド・バトシュ(ガザ)、アクラム・アジューリー(在外)、ムハンマド・ヒンディー(在外)、アンワル・アブー・ターハ(在外)、アブドゥルアジーズ・ミーナーウィー(在外)。*なお、西岸地区、1948年の被占領地、エルサレム、収監中の者から選出された政治局員の氏名は安全上の理由により公表されなかった。
評価
今般の選挙は、1979年に結成、1981年より公然活動を始めたPIJにとって、初めて選挙によって指導部を選出するものであった。同派は、1995年に創始者で指導者のファトヒー・シュカーキーがイスラエルによって暗殺された際、ラマダーン・シャッラフを書記長を選出した経験があるが、この際はシャッラフが後継として推薦を受けた上での選出であり、複数の候補者が立候補して争った今般の選挙とは異なる。
このような形で選挙が実施された理由として、シャッラフ前書記長が体調不良のため新指導部の選出が必要となったが、PIJの組織内に後継を推薦した上での選挙実施を嫌う勢力があったこと、PIJの一部古参幹部から現在の指導部に対し、組織からの疎外や汚職を非難する声が上がったことなどが指摘されている。観測筋は、今般の選挙でナッハーラ新書記長が選出されたことは、PIJ指導部に対するイランの統制を強めたと指摘した。
PIJは、ムスリム同胞団に起源をもち社会運動分野でも広く活動するハマースと異なり、対イスラエル武装抵抗運動を重視する少数精鋭の組織であると考えられてきた。しかし、近年は武装抵抗運動の面でほとんど戦果を上げられないでいる。PIJが変則的な形であれ組織全体で選挙を実施して指導部を選出したことは、PIJ自身の性格や活動の在り方が変化していることを示すとともに、パレスチナの対イスラエル抵抗運動そのものが重大な転機にあることを象徴しているように思われる。
(主席研究員 髙岡 豊)
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