中東かわら版

№61 イラン:アフワーズの軍事パレードに対するテロ事件

 9月22日、イラクとの国境に近いイラン南西部フーゼスターン州の州都アフワーズにおいて数百人規模の軍事パレードが襲撃された。今般の襲撃をイラン政府はテロと断定した。このテロにおいて、イスラーム革命防衛隊(IRGC)の隊員や民間人(子供含む)を合わせ、少なくとも死者24名以上、負傷者60名以上の犠牲が出た。実行犯4名のうち3名が治安部隊との戦闘時に死亡し、負傷した1名が病院で死亡した(メフル通信、9月23日付)。同テロについては「イスラーム国」の自称通信社「アアマーク」が犯行声明を報道し、「イスラーム国」もホラーサーン州名義で同様の声明を発表した。また、実行犯のうち3名と思われる男たちの映像が公開されたが、真偽の程は明らかでない(CNN、9月24日付)。

 テロ発生後、イランではイラクとの国境ゲートの一部を一時的に閉鎖するなどの厳戒態勢がとられたが、他の地域での軍事パレードは続行された。また、イラン政府は24日を全国的な服喪の日とし、アフワーズの全ての官公庁及び教育機関を休業させて、盛大な葬儀を催している。

 今般の事件に対し、最高指導者ハーメネイー師、ロウハーニー大統領ら要人に加え、軍関係者やIRGCの高官らも次々と報復を強調する類の声明を発表した。いずれもテロの実行犯へ資金提供を行ったのがサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)であると主張し、その背後には米国が存在するとしてそれぞれの国を名指しで批判している。

 イランが「イスラーム国」名義の攻撃を受けたのは、2017年のテヘラン襲撃事件以来であるが、背後関係や目的などについては現時点では明らかではない。テロ発生直後、アフワーズの急進的なスンナ派のアラブ系反体制組織である「アフワーズの愛国アラブ民主運動(PADMA)」が犯行声明を出したとも伝えられたが、同組織はツイッターやHP(9月22日付)を通じて関与を否定している。また、イラン情報省は24日にはテロ事件に関与あるいは後方支援を行ったとされる22名を逮捕したことを公表し、うち11名の映像を公開した。

 

評価

 アフワーズにおけるテロは、これを契機としてイラン国内で保守強硬派の動きが活発化するのではないかという懸念から、国内外で動揺を呼んでいる。その理由に、9月22日がイラン・イラク戦争(1980-88年)の開戦記念日(聖なる防衛週間の初日)であり、イランの国民感情が高まる日であったことが挙げられる。この日はイラン各地で各種兵器や軍備の公開と共に、軍、IRGC、民兵組織(バスィージ)、警察隊などによる軍事パレードが行われる国威発揚の日である。更に、今般のテロがイラン・イスラーム体制のシンボルともいえるIRGCを標的にしたものであったことから、イランは体面を傷つけられた形となった。そのため、IRGCを始めとして国内で保守強硬派の発言が激しさを増していることは事実である。

 こうした保守強硬派の言動を抑制するために、現政権は事態の早期解決と鎮静化を図っている。例えば、イラン外務省は事件発生同日、テロ組織のメンバーによる滞在や活動などがあったとされるオランダとデンマークの大使及びイギリス公使をそれぞれ外務省に呼び出して抗議した。加えて、UAEのアブダビ皇太子顧問が発した「これは軍関係者を標的にした攻撃でありテロではない」旨のツイートについても、UAE代理大使を呼び出し厳重な抗議を行っている。

 穏健派のロウハーニー大統領やザリーフ外相らがテロへの報復を公言していることで、事態は緊張感を増しているように見える。しかし、これも同様にIRGCを始め保守強硬派の報復熱に同調姿勢を見せることで、ある程度彼らの過熱する議論を抑制していこうという思惑があると考えられる。更に、保守強硬派は、今次の国連総会や安全保障理事会におけるトランプ米大統領(25、26日)、及び、イスラエルのネタニヤフ首相(27日)の演説にも過敏な反応を見せている。現政権がこうした一つ一つに対して強硬な姿勢で抗議することは、テロ事件によって高められている国民感情の留飲を下げ、これらが即座に保守強硬派の動きと結びつくのを防いでいるのである。

 現在イランは様々な面から、苦境に立たされている。特に米国のJCPOA離脱に伴う対イラン制裁の発動が大きな負担となっている。第2段階の制裁再開とイラン産原油の輸入停止措置が目前に迫り、イランはますます追い込まれている。しかし、その中にあっても、現政権は外交交渉によって活路を見出そうとしている。ロウハーニー大統領は、25日の国連総会演説において、外交による対話と国際協調の重要性を強調した。24日には、総会の傍らでイラン核合意(JCPOA)加盟国による外相会合も開かれ、JCPOA存続について具体的な交渉が進められている。現政権としては、一刻も早く今般のテロに関わる騒動の鎮静化を図り、来るべき事態に備えたいところだろう。

(研究員 近藤 百世)

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