中東かわら版

№56 イラク:バスラで抗議行動が激化

 イラク南部のバスラ市にて抗議行動が激化し、9日までにデモ参加者10人以上が死亡した。デモ隊は、地方自治体庁舎、諸政党事務所を襲撃したり、バスラ市内のイラン領事館を襲撃したり(7日)した。また、石油積み出し基地であるウンムカスル港や、バスラ県内の油田で活動する外国企業の操業にも影響が出た。

 イラクの当局は、バスラ市内での外出禁止令の布告と解除を繰り返したり、アバーディー首相がバスラ県警の長官を更迭するなどの対応を取り、10日の時点でバスラ市内は平静を取り戻しつつある。

 

評価

 抗議行動の原因は、電力不足、行政による基礎的なサービスの不備、汚職への不満と考えられている。とりわけ、イラクにおいては夏場の電力不足が常態化しており、毎年抗議行動が発生している。これらに加え、干ばつやチグリス川、ユーフラテス川の流量の不足により、バスラ市民が利用する上水道の水質が悪化し、住民の健康被害が顕在化したことも、抗議行動を激化させた要因である。従って、夏季が過ぎ電力不足への不満が多少緩和したとしても、問題解決のための実効的な措置が講じられたわけではなく、抗議行動が発生する素地は手つかずのままである。

 2003年のアメリカ軍の侵攻以来、イラクに対しては日本を含む各国が大規模な援助を行ってきたが、住民の生活水準を劇的に向上させるには至っていない。また、経済開発や社会資本の整備を指揮すべき中央・地方政府も、慢性的な問題を改善する措置を講じられないでいる。特に、現在のイラクの政界は、2018年5月に国会議員選挙が実施されたものの、9月に入っても新議会の議長の選出すらおぼつかない状況にある。「イスラーム国」との闘いや国際的な石油価格の下落、干ばつなどの不利な条件が重なったとしても、バスラでの抗議行動はイラクの政治過程の機能不全を象徴するものと言えよう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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