中東かわら版

№54 カタル:アメリカでのロビー活動を強化

 2018年8月31日『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)はアメリカの報道を基に、2017年のサウジなどによる断交以来、カタルがアメリカに対するロビー活動を強化しているとして、要旨以下の通り報じた。

  • カタルは、アメリカの著名な実業家らを通じてトランプ大統領に近しい人々に対するロビー活動を強化している。働きかけの対象として、トランプ大統領に近しい250人が名簿に挙げられている。
  • カタルはロビー活動のための予算を大幅に増加させた。2016年は420万ドルだった予算は、2017年には1630万ドルへとおよそ4倍に増額された。また、同国が活動に使ったロビー団体の数は、2018年6月以来23団体に上るが、2016年は7団体に過ぎなかった。
  • これらの予算の使途には、ロビー団体向けの支出、アメリカ議会でカタルの影響力を増すための議会質問でカタルを取り上げさせるための支出、働きかけの対象者をカタルに招待するための支出などがある。対象者のうち、20人がアメリカが実際にカタルを訪問した。

 

評価

 基の記事によると、上記のような働きかけの結果、カタルとアメリカとの関係は改善している。カタルは、2017年夏以降サウジ、UAE、バハレーン、エジプトを中核とするアラブ諸国から断交され、アメリカ、トルコ、イランなどとの関係強化でこれに対抗している。同国によるロビー活動の強化は、サウジなどに対抗する上でのことであろうが、サウジなどもこれに応じてロビー活動を強化することも当然予想される。

 中東諸国に限らず、アメリカの政界にロビー活動を通じて働きかけることは各国や利害関係者にとって常套手段であろう。また、歴代の大統領に比して独特の振る舞いが多いトランプ大統領への働きかけの経路として、同大統領に親しい人々への接触はとりわけ重要なものとなろう。しかし、アメリカの中東政策に関し、特定の国家によるロビー活動が成功を収めるということは、その分中東情勢や地域の国際関係について大局的な情報収集や客観的判断が犠牲になる可能性をはらんでいる。中東諸国によるロビー活動の強化が過熱すれば、アメリカの政策そのものが中東の不安定要因となる傾向が一層強まる恐れがある。

(主席研究員 髙岡 豊)

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