中東かわら版

№53 サウジアラビア:アラムコ社新規株式公開の遅れに関する報道まとめ

 8月22日、アラムコ社の新規株式公開(IPO)が中止されたとの報道が流れたが(8月23日付『中東かわら版』No.51を参照)、翌日、サウジのファーリフ・エネルギー相は報道を否定した。以下に、アラムコ社IPOに関する現在までの報道を取りまとめた。

  • ファーリフ・エネルギー相は、サウジ政府は現在もアラムコ社のIPO計画を進めており、適切な時期をみてIPOを実施すると述べた。(23日)
  • ファーリフ・エネルギー相は、アラムコ社のIPOに向けた措置の一つとして、同社の石油・ガスを探鉱・開発する権利を(これまでの無期限から)40年に制限したと発表した。(27日)
  • 28日付『ロイター』はサウジ政府筋の話として、IPOの中止はサルマーン国王によって決定されたと報じた。同決定には2つの要因がはたらいている。第一は、親族・銀行家・前アラムコ社CEOを含む石油企業上層部が国王に対し、IPOによってアラムコ社の財務状況が公開されることはサウジ財政を助けるどころか損害を与える可能性があると提言したことである。第二は、サルマーン国王とムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(通称MbS)は良好な関係にあるものの、サウジ国家の最終的な決定権は国王にあることを示す意図が国王側にあった。

 

評価

 アラムコ社の石油・ガス炭鉱・開発権が40年に限定されたことは、これまでほぼ一体化していたサウジ政府と同社の関係を公式なビジネス関係に規定し直したとも捉えられる。ファーリフ・エネルギー相によるIPO中止報道に対する否定コメントとも合わせると、この措置はIPO手続きが進んでいることを政府が対外的に誇示したようにみえる。

 他方、再び『ロイター』によってサルマーン国王がIPO中止を決定したとの情報が報じられ、アラムコ社のIPOに関する情報は不透明なままである。今回の問題はまさにここにある。IPO手続きの遅れについては、しばしば王室内政治が影響しているとの指摘がある。しかしこれらの指摘の信憑性如何よりも、国家的事業として世界に発表され、大きな注目を集めているアラムコ社IPOに関して中止の情報が流れること自体が、外国投資家に同事業に対する先行き不透明感を増し、サウジの国家的事業の信頼性を下げることを意味する。脱石油依存経済を目指す「ビジョン2030」の諸事業において外国からの投資を期待するサウジ政府だが、政府の信頼ある関与が問われているといえよう。

(研究員 金谷 美紗)

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