中東かわら版

№50 イスラエル:ネタニヤフ首相が「2030安全保障構想」を提示

 

 ネタニヤフ首相は8月15日に開かれた閣議で「2030安全保障構想」を提示した。首相府の発表によれば、その概要は以下の通り。

 

  • 予想される脅威と必要とされる兵士の数、向こう十年の軍事力の行使の理念に関する青写真を作成する。
  • 本文書は完全機密扱いで、過去2年の間に作成された。この文書は今後、国会の諜報・治安機関担当委員会、首相事務局、イスラエル国防軍将校、イスラエル総保安庁、イスラエル諜報特務庁の間で共有される。
  • 非機密扱いの文書が今後、承認のために閣議に提示される。
  • 軍事支出をGNP比で0.2から0.3パーセント増やす。
  • 予算増加は、すべての治安機関(イスラエル軍、イスラエル総保安庁、イスラエル諜報特務庁、その他機関)の支出について作成された。現在の支出はGNP比で6パーセント程度。
  • あらゆる安全保障上の需要に対する支出をGNP比で6%程度に留め、年間3から4%の経済成長を実現する。
  • GNPが5000億米ドルを超えた時点で、防衛需要への支出の(GNP比での)割合を再検討する。

さらに同日、ネタニヤフ首相は動画声明を発出し、要旨以下の通り述べた。

  • イスラエルの経済は、軍事予算の追加を許すほど十分強くなった。どんな状況であれ、責任のある予算枠組みを維持しつつ、軍事予算を増やしていく。
  • 防衛費の支出が増加することは、経済成長にとり必要だ。ここ20年、我々は国益、特に防衛に資するために自由経済を培ってきた。今日、持続的な経済成長を確かなものとするために防衛へのさらなる投資が求められている。
  • 安全保障と経済を組み合わせて強化していくことは、イスラエルの立場を強め、それゆえに我々の外交を強化する。
  • 防衛支出はサイバー能力、対ミサイル防衛システムの更新、国内の戦線での予防措置、安全保障上のフェンスの(作業の)完遂などに充てられる。

評価

 

 防衛費の増加は、今年の5月にもリーベルマン国防相が要求していた。例えば、対ミサイル防衛システムの更新、国内の戦線での予防措置はゴラン高原に向けてシリアから飛来しているロケットや無人機、戦闘機、またイスラエルに越境しようとする主体への対応、またガザ地区から飛来するロケットへの対応を想定していると思われる。他方、安全保障上のフェンスは、ガザ地区や西岸地区の周りに設置されているフェンスや分離壁を指していると思われる。これについて『the Times of Israel』は、現在ガザ地区の海上で建設が進められており、2019年末に終了予定の海上フェンスについて報道している。

 上記のようなイスラエルが直近で抱える安全保障上の脅威への対応は、今般提示された構想の中で、①防衛と経済成長、それに係る投資を結び付け、これを以って諸外国との関係構築、ないしは自国の外交上の立場の強化を図ること、②防衛産業への投資を通じて経済を成長させていくことと関連付けられている。なお、投資を行う主体について言及はないが、経済成長を外交に活用すると述べている以上、他国や、国外の企業からの投資も想定していると考えてよいだろう。

 こうした関連付け自体は国際政治の中で特段珍しくはなく、実際に防衛予算が増加されるのは先のことだろう。とは言うものの、ネタニヤフ首相が現時点で敢えてこれを公言することに意味を見出せるのであれば、今後、イスラエルが自国の防衛産業に資する経済活動を取る国に対して、外交、政治上の問題をめぐり自国を利するよう働きかける可能性を想起できるだろう。

(研究員 西舘 康平)

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