中東かわら版

№46 イエメン:サウジ、UAEと「アラビア半島のアル=カーイダ」との共謀

  2018年8月7日(日本時間)、APはイエメン紛争の諸当事者への取材の結果として、サウジ、UAEなどの連合軍が紛争で「アラビア半島のアル=カーイダ」と談合したり、戦闘に利用したりし、同派に巨額の資金や多くの装備を与えているとして要旨以下の通り報じた。 

  • サウジが率いる連合軍は、アル=カーイダの戦闘員らと密約を結んでいる模様である。その内容は、主要な都市から退去する見返りに装備や略奪品を持ち去ることを容認する、アル=カーイダの戦闘員らを連合軍傘下の部隊の兵員として登用する、などである。「アラビア半島のアル=カーイダ」へのこの種の譲歩は、同派が生き残り再起することを可能にするとともに、9.11事件以降最も危険なテロリストのネットワークを強化することにもなりかねない。
  • イエメンでは、二つの紛争が進行中である。一つは、アメリカとアラブの同盟国とによる「アラビア半島のアル=カーイダ」掃討であり、もう一つはサウジが率いる連合軍とフーシー派(正式名称:アンサール・アッラー)との紛争である。アメリカは、同国が「イランの拡張」とみなす現象(注:この場合はアンサール・アッラーの政権奪取)に対抗するサウジやUAEを支援することを、「アラビア半島のアル=カーイダ」への対策やイエメンの安定よりも重要視している。また、「アラビア半島のアル=カーイダ」はアンサール・アッラーとの戦いにおいては連合軍の共闘者でもある。
  • ある民兵の司令官は、2017年にアメリカの「テロリスト名簿」に掲載されたが、その後もこの司令官は自らの民兵を運営する資金をUAEから受け取っている。また、別の司令官は、側近に著名なアル=カーイダ幹部を登用しているが、(連合軍に与する)民兵の運営のために1200万ドルもの資金を受け取っている。
  • アメリカは連合軍の諸国に多くの兵器を売却するとともに、諜報情報の提供や航空機への空中給油などの支援をしている。その一方で、アメリカ自身は連合軍に資金を拠出しておらず、アメリカの資金が「アラビア半島のアル=カーイダ」にわたっていることを示す証拠はない。
  • APの取材を受けた「アラビア半島のアル=カーイダ」の幹部は、このような共闘関係はアイマン・ザワーヒリーからの指示に沿ったものであると回答した。また、サラフィー主義者やムスリム同胞団の民兵組織はアル=カーイダの戦闘員を活発に勧誘しており、アル=カーイダの戦闘員らは連合軍の資金によって利得を得ている。
  • 2017年、タイズ市では連合軍から武装車両の提供を受けたアル=カーイダ活動家らの部隊が治安機関の拠点を襲撃し、アル=カーイダ容疑者多数を解放した。治安当局者は、アル=カーイダが連合軍から供与された武装車両を装備しているのに対し、治安部隊側にはそのような車両がないと述べた。

 

評価

イエメン紛争の実態が報道される機会が少ないせいで現場の諸当事者の相関などを知る機会は乏しいが、「アラビア半島のアル=カーイダ」はアンサール・アッラーを敵視しこれを優先的に攻撃する傾向がある。「アラビア半島のアル=カーイダ」は、2012年1月18日付でアンサール・アッラーとの戦いについてのシャリーア上の見解を表明し、宗派主義的にアンサール・アッラーとの戦いを動機づけている。その後も「アラビア半島のアル=カーイダ」によるアメリカ人殺害や国際的な作戦、サウジへの非難は続いているが、今般の報道で引用されたアメリカの研究者は、UAEによるアル=カーイダ対策を「茶番」と論評しており、イエメン紛争の現場での連合軍とアル=カーイダとの共闘が進んでいる可能性がある。

ただし、イエメン紛争においては、主要な報道機関に「イエメン軍」と呼ばれるハーディー前大統領派は、実質的には雑多な民兵の集まりに過ぎず、効果的に統制されてはいない模様である。そのような集団の中に、アル=カーイダの戦闘員らが入り込むことを防ぐのは難しいだろう。同様の事例は、2012年ごろのシリアの「反体制派」とこれらに対する各国の支援でも生じている。アメリカは2012年末の時点で「ヌスラ戦線」を「イラクのアル=カーイダ」と同一の組織としてテロ組織リストに掲載したが、シリアの「反体制派」は「ヌスラ戦線」を擁護し、アメリカに対して指定の取り消しを求めた。また、「反体制派」を支援する諸国の多くも、「ヌスラ戦線」を含む武装勢力諸派への支援を続けた。こうした行為が後の「イスラーム国」の増長を招いたことに鑑みれば、イエメン紛争においてもアンサール・アッラーとの戦闘に「アラビア半島のアル=カーイダ」や同派と関係する民兵を容易に起用することは、将来に禍根を残すことと言えよう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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