中東かわら版

№44 イラン:リヤール暴落によるデモの発生とロウハーニー大統領の国会召喚

 米国によるイラン核合意(JCPOA)離脱に伴う対イラン制裁の再開が、イラン通貨リヤールの暴落を招いている。7月29日に市中両替商レートで1ドル=11万2000リヤール、前日比で約15%下落して史上最安値となり大きく報道されたが、翌30日にはそれをさらに下回る1ドル=11万9000リヤールを更新した。

 こうした経済状況の悪化に加えて失業率の増加や物価の高騰などを理由に、31日以降キャラジ、エスファハーン、ラシュト、シーラーズ、マシュハド、アラーク、ゴム、アフワーズなどで抗議デモが発生し、現在(現地8月5日)まで続いている。BBCペルシア語放送によれば、8月1日以降デモが過激化して逮捕者が出た他、3日にはキャラジにて初めての死者が確認された。また、エシュテハールドでホウゼ(宗教学校)の窓が割られるなど、宗教施設にも被害が出始めている。テヘランのグランド・バーザールも多くの店がゼネストの構えを見せている。

 経済状態の悪化を重く見たイラン国会はロウハーニー大統領の国会召喚を決定し、大統領もこれに応じる構えだ。ラーリージャーニー議長によれば、この度の質問状には多くの国会議員が署名しており(名前が公表されているのは81名)、次の5つの事柄について質疑がなされる(イルナー紙、8月2日付)。国会召喚までには、議会内規213条に基づき、1カ月の準備期間が与えられることとなる。

・物品と貨幣の密輸規制について

・銀行への制裁が継続していることについて

・効果的な失業者対策が不足していることについて

・近年の経済の停滞について

・外貨の急騰とリヤールの急落について

 

評価

 イランでは6月24、25日にも米国の核合意離脱による影響を懸念してリヤール価値が下落し、各都市でデモが頻発している(『中東かわら版』No.35)。その際の市中両替商レート最安値は1ドル=9万リヤールであった。今般の暴落はそれを下回ったことから、目前に迫る米国の対イラン制裁再開が、イラン経済に深刻なダメージを与えていることが伺える。リヤール価値は、8月6日までの間に1ドル=10万リヤール前後を行き来しており、先行きの不透明さが市場を苛立たせている。

 状況悪化を防ぐために国内の報道は控えめとなっているため、デモについては外国メディアがソーシャルメディア上にアップロードされた個人撮影の映像などを基に報道している状況にある。これらの映像からは、体制や最高指導者ハーメネイー師の打倒、シリア・レバノンへの干渉の批判、前王朝のレザー・シャーの名を叫ぶ等のシュプレヒコールが認められた。また、テヘランのヴァリー・アスル通りやキャラジのゴウハルダシュトでの抗議行動には、一部女性の姿も見られた。一連の抗議行動を政権崩壊の兆しと捉える報道もあるが、こうした類のデモは経済状況が悪化する度に起こるもので、その動きが保守強硬派などの勢力と結びついて都市間を超えたネットワークを形成するようなことがない限り、大きな政治的影響力を持つものではないだろう。

 現在、ロウハーニー大統領は経済状況の悪化を食い止めるために、金融政策を発動する準備を進めている。しかし、米ドル決済とSWIFT(国際銀行間通信協会)による国際金融体制の中で、イランの経済状況を劇的に改善する秘策が国内外いずれにも存在しないことは明白である。抗議行動も国会の糾弾も、効果的な対策を提示できないロウハーニー大統領を始めとした現政権や現体制トップのハーメネイー師に怒りの矛先を向けているが、それはアンビバレントな行動であるといえよう。イランが米国に阿ることなく地域大国としての地位を維持したいのであれば、国内外の意見を調整しつつ対話の道を探る姿勢を崩すわけにはいかない。つまり、イラン核合意を通して国際社会への復帰の道を拓いてきた現体制・現政権を評価しなければならない。現体制や現政権への批判によって国内を混乱させることは、地域大国として国際社会に復帰したいというイラン全体のビジョンに逆行してしまうのである。

 5日付のポンペオ国務長官のインタビューによれば、米国は、米東部夏時間8月6日午前に制裁再開に関する詳細を発表し、7日午前0時01分に制裁の第一段階を再開する。国会召喚と前後して、現体制・政権の責任を問う声が一段と強くなっている。また、8月2日にイスラーム革命防衛隊がホルムズ海峡での年次軍事演習を前倒しで実行するといった恣意行動をとるなど、保守強硬派の動きも目立ち始めている。しかし、上述の理由によって、イランは11月の制裁の第二段階の再開を睨みつつ、暫くの間は現状を維持していくことになるだろう。

(研究員 近藤 百世)

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