中東かわら版

№42 イエメン:バーブ・ル・マンダブ海峡のタンカー通過禁止とその影響

 2018年7月25日、サウジが率いる連合軍はイエメン沖のバーブ・ル・マンダブ海峡でタンカー2隻がフーシー派(正式名称:アンサール・アッラー)の攻撃を受け、軽微な損傷が生じたと発表した。これを受け、連合軍は石油タンカーが同海峡を通過することを一時禁止すると発表した。

 バーブ・ル・マンダブ海峡は、幅およそ30kmの海峡で、スエズ運河の開通(1869年)以来、地中海とインド洋とを結ぶ海上交通の要衝である。同海峡を往来する石油タンカーは、年間2万1000隻以上で、2013年には1日当たり380万バーレル、2016年には日量480万バーレルの石油が輸送された。

 また、スエズ運河を通行する船舶の98%が同海峡を通過している。

 

評価

 7月26日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)は消息筋の話として、石油タンカーが同海峡を通過することが禁じられても、アジア向けのサウジ産石油の供給に影響が出ることはないと報じた。一方、この措置によりタンカーの航行距離が延びるため、ヨーロッパ、アメリカ方面へのサウジ産石油の輸出費用が増すと見られている。

また、イエメン紛争の当事者であるアンサール・アッラーの側も、イエメン沖を通過する船舶を攻撃したとされる事件を度々起こしてはいるものの、船舶を撃沈するほどの被害が生じるような攻撃を行った例はなく、同派にバーブ・ル・マンダブ海峡の海上交通に致命的な影響を与える能力は乏しいと思われる。従って、現時点で石油タンカーがバーブ・ル・マンダブ海峡を通過することが禁じられても、国際的な石油の供給や価格に大きな影響は出ないとの見方が主流のようである。一方、スエズ運河の通行料収入はエジプトの外貨収入の柱の一つであり、同海峡の通過が禁じられるのがタンカーに限られたとしても、通行禁止措置が長期化すればエジプトの経済に悪影響が出る可能性がある。

(主席研究員 髙岡 豊)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP