№41 エジプト:シーシー大統領がスーダンを訪問
7月19日から20日にかけて、スーダンでシーシー大統領とバシール大統領が会談した。会談では、2国間の経済協力、貿易規模の増加が議題となった。また経済、貿易、文化、治安、軍事面での戦略的な関係の構築、水利・農業分野での合意締結、域内・国際情勢の進捗をめぐる立場の調整について相互の理解が示された。
域内情勢について、会談ではリビアにおける平和と安定の実現に係る協力の必要性が確認されたほか、南スーダン政府と反体制諸派の間で進められている和平協議(26日に和平合意締結)の結果が、エジプト側に提示された模様である。他方、両国間で対立するハラーイブ・トライアングルの領属問題は、10月にハルツームで開催予定の2カ国の首脳会談に持ち越すことで両者が合意したと報道された。
会談後に行われた記者会見では、地域情勢に関してシーシー大統領が、エチオピアとエリトリアの首脳に対して、両国関係が積極的に進展する中で、エジプトはエチオピア・エリトリア間の協力、安定、和平の実現を全面的に支援し続けると発言した。また南スーダン首脳に対しては、和平が実現されるために域内の兄弟と作業に取り組むと言及した。
評価
今回の訪問の目的として、まず2国間の関係強化が挙げられる。エチオピアのルネッサンスダム建設やハラーイブ・トライアングル領属、エジプトとエリトリアによるスーダンの反体制派支援の疑惑をめぐり、ここ数年の両国関係は決して良好とは言えなかったためだ。他方、今回の訪問で特筆すべきは、ナイル川流域の開発を進める上で南スーダン情勢の安定が求められており、そのためにエジプトがスーダンを必要としている面である。
エジプトにとって南スーダンは、白ナイル上の開発を進める際に重要な地域となる。これまでエジプトでは、同国内のスッド地域(湿地帯)、また同国より南に位置するビクトリア湖等で水の蒸発を防止し水資源を増大する議論がなされてきた。だが、資金の問題や環境への深刻な影響、テロや内戦によるナイル川流域諸国の治安・政治情勢の不安定を理由に実現は難しいといわれてきた。ところが現在、こうした議論は、ルネッサンスダムの建設で取水量が減るため、白ナイルからの取水量を増やし補填するという文脈でエジプト国内で再燃している。その一方でエジプトは、ここ数年の間に南スーダンの停戦に度々関与してきたが、中々成果を挙げられなかった。こうした状況の中でエジプトが南スーダンの停戦を仲介するスーダンを支持するのは極めて現実的な姿勢で、自然な流れだろう。
また今回の訪問が行われる背景の一つとして、2013年以降にシーシー政権がNEPAD(New Partnership for Africa’s Development)の枠内で主導しているヴィクトリア湖・地中海河川航路の建設プロジェクト(2029年終了予定、現在は計画段階)があると思われる。ここでも南スーダンはプロジェクトを左右する国の一つとなっている。本プロジェクトでは鉄道網の敷説や国際幹線道路の整備・統合が含まれる一方、ナイル川の河川航路としての整備や水資源管理が計画されている。航路は(ビクトリア湖―アフリカ大湖沼―バハル・ジャバル(南スーダン)―スッド地域(南スーダン)―白ナイル(南スーダン)―スーバート川(南スーダン)―青ナイル―アトバラ川―ワジハルファーナセル湖―地中海)であり、南スーダン国内で大規模な工事を進める必要のある内容となっている。
確かに、ここ最近のエジプトのナイル川流域への対外政策は、特にエチオピアのルネッサンスダム建設において、スーダンやエチオピアなど近隣諸国との軍事・治安面での協力が強調されている。だが、今回の訪問からは、こうしたエジプトの試みはあくまで上記のようなプロジェクトの成功を目的とした国家関の関係構築の模索であることが分かり、このことはナイル川がエジプトにとって政争の具である以上に重要なことを意味している。
(研究員 西舘 康平)
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