中東かわら版

№38 トルコ:大統領制移行後初の閣僚発表

 7月9日、レジェップ・タイイプ・エルドアン大統領は、新制度へ移行後初の閣僚人事を発表した。6月24日に実施された大統領選挙並びに大国民議会選挙の結果に基づくもので、全18名の閣僚のうち2名が女性であった。概要は以下のとおり。

 

 

職名

氏名

備考

1

大統領

レジェプ・タイイプ・エルドアン

前大統領

2

副大統領

フアト・オクタイ

新ポスト

3

法務大臣

アブデュルハミト・ギュル

重任(2017年7月就任)

4

労働・社会事業・家族大臣

ゼフラ・ズムリュート・セルチュク

女性

5

環境都市整備大臣

ムラト・クルム

 

6

外務大臣

メヴリュト・チャウシュオール

重任(2016年5月就任)

7

エネルギー天然資源大臣

ファーティヒ・ドンメズ

 

8

青年スポーツ大臣

メフメト・カサポール

 

9

財務大臣

ベラト・アルバイラク

前エネルギー天然資源大臣

エルドアン大統領は義理の父

10

内務大臣

スレイマーン・ソイル

重任(2016年8月31日就任)

11

文化観光大臣

メフメト・エルソイ

 

12

国家教育大臣

ジャー・セルチュク

 

13

国防大臣

フルシ・アカル

前参謀総長

14

保険大臣

ファフレッティン・コジャ

 

15

産業技術大臣

ムスタファ・ワランク

 

16

農業森林大臣

ベキル・パクデミルリ

 

17

商業大臣

ルフサル・ペキジャン

女性

18

運輸インフラ大臣

メフメト・ジャーヒト・トゥラン

 

 

 

評価

 米国型の大統領制へ移行後、初めてとなった今回の閣僚人事は、国内外から大きな注目を集めた。これまで採用してきた議院内閣制との最大の違いは閣僚を議員から選出する必要がないということである。これにより、大統領補佐官経験者、テクノクラートや実業界出身者等、専門性を持つ人材を幅広く登用することができるようになった。悲願の大統領制移行を実現したエルドアンの狙いは官僚が国家を支配する従来のシステムを廃し、新しい国家の在り方を構築することにあり、官僚の重要部分を大統領官邸に集中させることで、これを明確にしようとする姿勢がみられる。

 発表された閣僚の顔ぶれをみると、内務相、外務相、法務相の主要3閣僚は重任とさせていることから、トルコの当面の内政、外交の基本方針に変更はないだろう。また、国防相には直近まで参謀総長を務めたフルシ・アカル氏を登用した。アカル氏はNATO司令官などを歴任し、2015年8月に参謀総長に就任、2016年7月15日に発生したクーデタ未遂事件の際、参謀本部内で拘束されクーデタに協力するよう執拗に迫られたものの、翻意することなく同事件を未遂に終わらせた功労者の一人で、エルドアンの信任を得ている。2018年1月から実施されているシリア国境での軍事作戦を政府と一体となり指揮を執ってきたアカル氏の起用により、軍事政策もこれまで通り継続されるだろう。

 さらに、トルコが直面する最大の課題である経済については、金融・財務に関する業務を一本化した新しい省のトップにアルバイラク氏が起用された。同氏はエルドアン大統領の娘婿にあたることから発表直後の為替相場でトルコリラは対ドルで5%超急落した。市場はかなり敏感に反応したが、アルバイラク氏の下での実務は、財務、金融のエキスパートである「参謀」が取り仕切ることとなるため、各報道にあるようなエルドアンの「意のまま」になると断言するのは尚早であろう。しかしながら、大統領への権限集中への懸念が増大している中で重要ポストに身内を起用したことへの不信感は拭えない。

 これらのことから見えてくるのは、トルコの基本的な外交方針に変化はないということである。ただし、対立が表面化している対EU、対米関係は、従属姿勢を改め独自の路線を貫くことが考えられる。内政については、新制度のもとで、インフレとリラ安の抑止など山積する課題をどこまで解決できるかがカギとなろう。

 

(研究員 金子 真夕)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP