中東かわら版

№37 イラン:イラン核合意存続を巡る外相級会合の成果と課題

2018年7月6日、英仏独中露(E3+2)とイランの6ヵ国は、米国離脱後のイラン核合意(包括的共同作業計画、JCPOA)存続を巡る協議のため、オーストリアのウィーンで外相級会合を開いた。議長は欧州連合(EU)のモゲリーニ外務・安全保障政策上級代表(外相)が務め、イランからはザリーフ外相が出席した。

 同会合において、核合意存続の重要性が再確認され、協議継続によって米制裁による打撃緩和の道を探る方針がまとめられた。協議終了後、モゲリーニ上級代表は、「ブロッキング・スタチュート」発動や欧州投資銀行(EIB)の融資(7月4日承認)などによって、イランでビジネスを展開する欧州企業への「二次制裁」を回避する対策を実施する声明を発表した。

 

評価

 イランの核合意離脱を防ぐために解決せねばならない課題は、いずれも米国の対イラン制裁の段階的復活(8月6日、11月4日)に関わるもので、次の3点に集約される。課題1:各国に発せられた対イラン貿易遮断要求への対処。課題2:対イラン・ビジネスを行う外国企業へ科される「二次制裁」への対策。課題3:一連の制裁によるイラン側の損失(特にイラン産原油輸出停止による損害)の補填。特に課題3はイランにとって、核合意残留を決定する大きな要因となるため、内外から注目が集まっていた。

 イラン国内では、米制裁を前に、既にリアルの値下がりやデモ発生などの影響も出始めており(詳しくは「かわら版」No.35)、大きな関心が寄せられていた。そのため、ロウハーニー大統領は、7月2日から4日にかけてオーストリア・スイスを訪問し、欧州各国に具体的な保証内容を提示することを再三にわたり要求した。また、帰国直後の5日にメルケル独首相及びマクロン仏大統領との電話会談で、具体策の不在に遺憾の意を伝えている。

 しかし、今般の会合では課題2への方策が中心となり、課題1・3については抽象的な確認の域に留まった。この結果に対し、イラン国内では落胆の色が見え隠れする。例えば、『イルナー通信』のインタビュー(7月7日付)に答えたファラーハト・ピーシェ国家安全保障外交政策委員会委員長は、これらの対策が米国の脅威に対抗できるようなものではないと述べる。

 しかし、ザリーフ外相が会合後のインタビューで述べた通り、「米国の核合意離脱後の二ヵ月間、核合意におけるイランの利益確保のために成された多大な努力」が結実し、初めて閣僚レベルでの会合が開かれ、核合意存続の方向で足並みが揃ったことについては評価されるべきである。とはいえ、残された課題、特に課題3を関係各国のみで調整していくのは至難だろう。

(研究員 近藤 百世)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP