中東かわら版

№36 イラク:ナツメヤシ農業の再興

  2018年7月3日付『ハヤート』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)は、イラクにおけるナツメヤシ農業の再興について要旨以下の通り報じた。

  •  イラクはかつて世界的なナツメヤシの産地だったが、数々の戦争や制裁のため産地としての地位を失った。2003年以後も、販売や取り引きの手法の発達や競争に取り残された。
  • 大都市近郊の果樹園が、宅地開発のために失われた。バグダードでは、2003年以降ナツメヤシの果樹園の4割が失われた。伐採、耕作放棄、宅地開発などのため、10年前の時点で、最盛期には3300万本栽培されていたナツメヤシの木は1100万本程度にまで減少した。
  • イラク政府は、農民向け融資の拡充、苗木の配布、老木の更新、民間部門の育成を通じてナツメヤシ栽培を奨励しようとしている。2013年の時点で、1700万本のナツメヤシが栽培されており、うち果実を生産している木は1090万本である。
  •  2017年のイラクのナツメヤシの生産高は67万6000トンで、2016年に比べて2%増加した。

 評価

 イラク政府や産業界は、世界的にナツメヤシの消費が拡大しているため、世界の市場への進出を図っている。現在、イラクからの輸出は99%が原油であり、経済の石油依存を軽減する上でもナツメヤシ産業の再興が必要であろう。しかし、それ以上に重要なのは、近年の干ばつとイラクの主要水源であるチグリス川、ユーフラテス川の上流に位置するトルコによる大規模ダムの建設により、イラクの農業用水の確保が難しくなっていることがある。イラク政府は今期、渇水により農業計画の見直しを余儀なくされ、栽培に多くの水を必要とするコメやトウモロコシの栽培を削減している。これに対し、ナツメヤシは恒常的な灌漑を必要とせず、消費する水を削減することができる。

 隣国のシリアにおいては、干ばつと作付け計画の誤りが農村部の荒廃を招き、シリア紛争の発端となった抗議行動の遠因となったとの説もある。水の利用や農業生産の計画は、厳しい水事情に直面する中東諸国の多くにとって、単なる農業・経済の問題ではなく、地域全体の社会の安定の問題でもある。

(主席研究員 髙岡 豊)

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