中東かわら版

№35 イラン:リヤル値下がりを受けてデモが発生

 6月25日から、対ドルでリヤルが値下がりしたことを受けて首都テヘランや各都市のバザールで抗議活動が発生している。25日にはイラン国会前でデモ隊と治安部隊が衝突しており、シーラーズ、シャハルヤール、ゲシュム、マシュハド、バンダレ・アッバース、キャラジ、エスファハーンでも同種の抗議が発生した模様である。

 今回のデモに関して、25日付の『ハヤート』紙(汎アラブ紙)は以下の通り報じた。

・抗議では「ハーメネイー指導者に死を」、「政権に対するシリア介入の停止」が呼びかけられた他、抗議者が武器を所持していると示唆した。

・ムハンマド・シャリーアトマダーリー工業・商業相が、1339品目の輸入を禁じ、類似の製品はイランで生産可能だと述べた。

・イランのヴァリーオッラー・セイフ中央銀行総裁は、イラン政府が来週、並行市場の創設を計画しており、これはブラックマーケット対策だと発表した。

・バザール運営中央委員会委員長のアブドゥッラー・エスファンディヤーリーは、商人たちがリヤルの下落、外国為替レートの変動、税関の妨害、関税許可の基準が不明確なことに抗議しており、決めることもモノを売ることもできないと述べた。

・国会前で抗議を行った数千人の商人は、「シリアとその将来は放っておけ。我々のことを考えろ。独裁者に死を。ハーメネイーに死を。無能な指導者は不要。我々の敵はここにいる。アメリカが敵だという奴らの発言は嘘だ。我々が武器を持つ日に気をつけろ。改革主義者よ、原理主義者よ、遊びは終わりだ」と主張した。

評価

 今般のデモは核合意を巡る現政権へのこれまでの不満が噴出した形を取っており、ロウハーニー政権はその鎮静化を図っている。ロウハーニー大統領は、デモの発生を受けて、イラン人民に向けて3つの選択肢(①米国に従属する、②国内で対立が続く中、米国を前に耐え忍んでいく、③アメリカに屈することなく歴史的尊厳を守る)を提示した。また、デモが発生する前には、政府が設定した価格で国内市場に流通するドルをブラックマーケットで販売する者に課税を掛けていく等の対応を示してきた。他方、ザリーフ外相も24日の時点で、「ロウハーニー大統領が失脚すれば、原理主義者は失敗する。イランは米国離脱後の核合意の枠組みでイランが原油を販売する保証を欧州諸国から得た」等と主張しており、ロウハーニー政権が米国離脱後の核合意を巡って成果を出していることをアピールしていた。

 こうした政府の対応の背景として、かねてよりロウハーニー大統領の責任を問う複数の政治勢力の声があったことを指摘できる。27日、国会議員187名(300名中)は、経済関係の決議の実施や発表によってロウハーニー大統領に対する国民の不信が強まったため、政府が決議を取る前に、経済チームの指導者の変更、内閣改造を早期に行うよう呼び掛けている。さらに、革命防衛隊も経済状況の悪化をロウハーニー大統領の手腕に依るものとの書簡を同大統領に送っている。

 また、25日付の『クドゥス・アラビー』によれば、核合意の交渉に参加した元駐ドイツ・イラン大使で、ロウハーニー大統領の側近であるホサイン・ムサビヤーンが、ロウハーニー大統領に対して辞任、共和国統合のための早期選挙の実施を求め、現在の状況が同大統領の任期満了まで続けば、政府は大きな痛手を被ると強調している。その他、イランの改革派やハーメネイー指導者の側近といった主体によるロウハーニー大統領の辞任要求が増えているとの見方もアラビア語の報道で見られる。

 こうした報道に鑑みれば、まず核合意をめぐる欧州諸国やロシア、中国とイラン政府間の折衝や核合意や経済制裁を巡るアメリカとの対立、また中東域内に対する現イラン政府の政策(イエメン情勢と核合意を絡めた議論への合意やシリアへの派兵を通じたイスラエルとの対峙)をめぐり、イラン側が一枚岩ではないことが分かる。今後の推移を見る上では、現政権の政策に不満を覚える政治勢力の動きを見ていくことも重要だろう。 

 

(研究員 西舘 康平)

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