中東かわら版

№34 トルコ:大統領選挙と大国民議会選挙の実施

 6月24日(日)、トルコ全土で大統領選挙及び大国民議会議員(国会議員)選挙が実施された。今般の選挙は、2019年11月に予定されていた大統領選挙と国会議員選挙の実施を前倒しして行われたダブル選挙で、2017年4月の憲法改正後初となった。改正前と大きく異なるのは国会議員の定員数で、これまでの550から50増えて600議席となったことである。現職のエルドアン大統領再選と、与党の公正発展党(AKP)が過半数を取れるかが最大の争点となっていたが、エルドアン大統領の再選とAKPが第一党を死守する結果となった。

 6月25日現在、即日開票された結果は以下の通り。

 

【大統領選挙】

投票者数:50,730,337人(うち有効投票者数 49,607,687人)

投票率:86.6%

開票率:99.2%

候補者別得票率:

1. レジェップ・タイイプ・エルドアン(現職・公正発展党) 52.5%

2. ムアッリム・インジェ(共和人民党) 30.7%

3. セラハッティン・デミルタシュ(人民の民主主義党) 8.4%

4. メラール・アクシェネル(良い政党党首) 7.3%

5. テメル・カラモッラオール(幸福党党首) 0.9%

6. ドウ・ペリンチェッキ(愛国党党首) 0.2%

 

【国会議員選挙】

投票者数:50,700,826人(うち有効投票者数 49,654,706人)

投票率:86.7%

開票率:99.1%

総議席数:600議席(2017年の憲法改正により550議席から50議席増)

政党別得票率(予想獲得議席数):

・公正発展党(AKP・親イスラーム・中道右派政党) 42.5%(293議席)

・共和人民党(CHP・世俗主義・中道左派) 22.7%(146議席)

・人民の民主主義党(HDP・クルド系左派政党)  11.6%(67議席)

・民族主義者行動党(MHP・極右政党) 11.1%(50議席)

・良い政党(İyi Parti・世俗寄り・右派政党) 10.0%(44議席)

・その他 3.1% (0議席)

 

評価

 今般のダブル選挙は、エルドアン大統領のこれまでの政治手法に対しトルコ国民がどのような審判を下すのかという点で大きな意味を持ち、国内外からの注目も高い選挙だった。

 大統領選は、事前の世論調査や報道において、現職のエルドアン大統領が苦戦を迫られ、1回の投票での過半数獲得はならず、決選投票までもつれるだろうというのが大方の見方であったが蓋を開ければ、2位でCHPのインジェ候補に大差をつけての再選となった。特に極右政党のMHPと袂を分かち2017年10月に結党された「良い政党」のアクシェネル党首が20%前後を獲得して善戦するのでは、との見方もあったが、結果はわずか7.3%と、獄中から立候補しているクルド系政党のデミルタシュ候補にも及ばず4位に沈んだ。

 一方、国会議員選挙では、与党のAKPが2015年11月の総選挙時から得票率を6.99%減らし42.5%となった。目標としていた単独過半数は取れなかったものの、選挙前から協力体制を構築してきたMHPと連立を組めば過半数は確保できる。最大野党であるCHPも得票率を2.61%減らし、22.7%となった。3位に食い込んだHDPは、2016年7月15日のクーデタ未遂事件以降、エルドアン大統領や政府から抑圧されてきたにもかかわらず、クルド系住民が多いトルコ南東部で票を固め微増となった。新興勢力である「良い政党」は、今後詳細な投票行動等の分析が必要となるが、前回の選挙からAKPとCHPが減らした得票率の合計と「良い政党」が獲得したそれとはほぼ同数となり、同党がトルコ国民にとって世俗か親イスラームかではない、一つの選択肢となり得た可能性が高い。

 他方、エルドアン大統領が再選を果たせた最大の要因は、野党候補が対抗馬としての受け皿となり得なかったことが大きいだろう。最大野党CHPのインジェ候補にしても、良い政党のアクシェネル候補にしても、エルドアン批判を繰り返したが、最大の懸案である経済をどう立て直すのかについて具体的な政策を示すことが出来ず説得力に欠けた。また、ここ数年トルコを取り巻く情勢は混迷しており、内外ともに国家運営は微妙なバランスが求められる。これまでのエルドアンの実績に対する評価のみならず、強権的と言われながらも強いリーダシップを発揮し、今のトルコを引っ張っていけるような魅力的な候補者がおらず、「消去法」でエルドアンに投票した有権者も多かったのではないだろうか。エルドアンの目論見通り勝利をおさめることとなったが、今後の道のりが険しいことに変わりはない。

 

(研究員 金子 真夕)

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