中東かわら版

№33 エジプト:燃料価格の引き上げ

 6月16日、政府は石油製品への補助金の削減にともない、以下の通り燃料価格の引き上げを発表した。

 

新価格

旧価格

値上げ幅

ガソリン オクタン価95

EGP 7.75/ℓ

EGP 6.60

+17.4%

     オクタン価92

EGP 6.75/ℓ

EGP 5.00

+35%

     オクタン価80

EGP 5.50/ℓ

EGP 3.65

+50.6%

ディーゼル油

EGP 5.50/ℓ

EGP 3.65

+50.6%

灯油

EGP 5.50/ℓ

EGP 3.65

+50.6%

家庭用ガス・シリンダー

1本 EGP 50

EGP 30

+66.6%

商業用ガス・シリンダー

1本 EGP 100

EGP 60

+66.6%

自動車用天然ガス

EGP 2.75/㎥

EGP 2

+37.5%

(出所)石油・鉱物資源省より作成。(注)EGP=エジプト・ポンド。2018年6月現在、1EGP=6.15円。

 マイート財務相は、石油製品への補助金削減は、2018/19年度(2018年7月1日開始)における補助金予算を900億ポンド以内に抑えるため、また国民が必要とする社会保障、保健・教育、住居、青年層への雇用創出といった分野に予算を配分するために必要であったと説明した。2018/19年度の石油製品補助金予算は891億ポンドで、2017/18年度の1101億5000万ポンドより20%減となった。政府は2021年までに燃料補助金(電気、石油製品など)を完全になくす方針である。

 こうした燃料価格の引き上げと同時に、政府は低所得層への生活補助やパン補助金は維持し、年金受給額の引き上げ、公務員給与の引き上げを行うと発表している。2018/19年度の人件費予算は、2017/18年度の2400億ポンドから2700億ポンドに増額された。

 

評価

 エジプトの国家予算に占める補助金の割合は約2割、補助金予算のなかでは燃料補助金が7割を占める。IMFとの融資合意(2016年11月)にもとづく財政赤字削減政策として、シーシー政権は燃料補助金の削減に積極的に取り組んでおり、今回の値上げは融資合意以来3回目の燃料価格引き上げとなった。5月には地下鉄料金も大幅に引き上げられ(かわら版2018年6月13日No.29)、一般家庭の生活に再び負担が増えたことになる。シーシー政権が国民に負担を強いる経済改革を次々に実行できる理由は、強権政治と有力な反対勢力の不在ゆえである。

 他方、パン補助金の維持や公務員給与の引き上げ、あるいは国家予算における人件費維持という手法は、エジプト政府が経済改革による影響を緩和するためにとってきた常套手段である。しかし人件費は予算全体の3割を占める大きな財政負担であることから、本来はIMFが削減を要求している改革の対象である。エジプト政府が現行の人件費を維持しつづけていくことは財政安定化のうえで現実的な選択ではない。しかし、物価上昇で国民生活の負担が大きい現状に鑑みると、パン補助金と人件費という2つの聖域には当分の間メスを入れられないだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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