中東かわら版

№29 エジプト:公共料金(地下鉄・水道・電気)の値上げ

 エジプト政府は最近、地下鉄、水道、電気料金といった公共料金の値上げを次々に発表している。以下は、最近値上げが発表された公共料金の例である。

  • 5月11日:カイロ地下鉄料金を値上げ。一律2ポンドであったが、乗車距離に応じて3、5、7ポンドとなる。
  • 6月3日:水道料金を最大46.5%値上げ。
  • 6月12日:電気料金を8~69.2%値上げ。1カ月当たり使用電力量の少ない価格帯(350kWh未満)で最も値上げ幅が大きく、27.3~69.2%となる。

 

評価

 この時期に公共料金の値上げが発表された理由は、4月に行われた大統領選挙に影響を及ぼすことを避けるため、シーシー大統領の再選が決定した後というタイミングで発表されたと考えられる。

 シーシー大統領は2014年の大統領就任時から財政赤字の削減を重要課題に挙げ、エネルギー補助金の削減と電気・燃料価格の引き上げを実施してきた。2016年11月のIMFとの合意において融資条件として引き受けた経済構造改革のため、エジプト政府はさらに財政赤字削減に取り組む必要がある。このため、極めて低い価格でサービスが提供されていたカイロ地下鉄、水道、電気で値上げが敢行された。改めて、シーシー大統領の経済改革を断行する姿勢が明らかになったと言えよう。

 当然、国民の間には値上げに対する不満が大きい。2011年以降、エジプトのGDP成長率は回復しつづけ、2018年の成長率は5%と予想されているものの、物価高と失業問題は国民生活の大きな負担となっている。しかし、人々が値上げに反対して抗議デモを行う可能性は低いだろう。治安当局は、反政府行動に参加した人々を対テロ法や非常事態宣言によって逮捕し、治安裁判所に起訴している。地下鉄料金の値上げに反対して抗議した人々も、治安裁判所で有罪判決を受けた。また、シーシー大統領に代わる指導者が存在しないことも、国民が現政権に反対の意思を表明しない理由であろう。ヨルダンでは緊縮財政に反対する市民が抗議を行ったが、シーシー政権下のエジプトでは上記の理由から人々は抗議行動に出ず、緊縮財政においても政治の安定を当面保つことができると思われる。

(研究員 金谷 美紗)

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