中東かわら版

№26 シリア:アブハジア共和国、南オセチア共和国を承認

 2018年5月29日、シリアの外務省はアブハジア共和国、南オセチア共和国と相互承認・大使館レベルでの外交関係の樹立で合意したと発表した。両共和国は、1991年のグルジア独立以来、ジョージア(グルジア)国内での自治権や独立をめぐって樹立された「未承認国家」であり、2008年には南オセチアを巡ってロシアとグルジアとの軍事衝突も発生している。国連加盟国の間ではアブハジア、南オセチアの独立はほとんど認められておらず、承認している国はロシアをはじめとする数カ国にとどまっている。

 

評価

 国際的に独立を認める国がほとんどないアブハジア、南オセチアの両共和国をシリアが承認し、外交関係の樹立で合意したことは極めて異例である。シリアにとっても今般の合意により両国から得るものはほとんどないと思われることから、両共和国の承認はその後ろ盾であるロシアとの関係上の判断に基づくもののようにも思われる。シリアは、2011年のシリア紛争勃発以来、国連安保理における対シリア決議案への拒否権行使、食料・燃料・兵器・軍需物資の供給など政治・外交・軍事などの様々な面でロシアへの依存を強めている。安保理決議に拒否権を行使できるという意味で、シリア紛争という文脈でシリアにとってのロシアの重要性はイランをはるかに上回るといえる。従って、今般の措置は外交・安全保障面で主体性を失ったシリアがロシアに従属することを象徴しているようにも見える。 

 一方、ロシアは最近シリアの南部国境地域やイスラエルとの兵力引き離し地域沿いの「反体制派」や「イスラーム国」の占拠地域の解消、アメリカ軍の占領地域の解消、すなわちこれらの地域へのシリア政府軍の展開に向けた働きかけを強めている。シリア政府にとっては、アブハジア、南オセチアの承認はロシアに対する数少ない取引材料と思われることから、シリア紛争の解決に向けた動き、特にシリア政府の統制の回復や紛争の政治解決のための協議・交渉において今般の措置がなにがしかの形で反映されると思われる。

(主席研究員 髙岡 豊)

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