中東かわら版

№23 パレスチナ:国際刑事裁判所への捜査付託を発表

 22日、パレスチナのマーリキー外相は国際刑事裁判所(ICC)のFatou Bensouda主任検察官と会談した。23日にはICCに対し、イスラエル国防軍がここ6週間で100人のパレスチナ人をガザ地区とイスラエルの境界で殺害したことと、2014年のガザでの衝突に関する戦争犯罪、西岸地区と東エルサレムで違法に10000戸の入植地を建設したことについて捜査を要請した。

 2015年にパレスチナはICCへの加盟を果たした。PLO執行委員会のある委員によれば、アッバース大統領は2016年、アメリカにICCへの捜査付託をしないことで合意していた。その代わりに、アメリカはエルサレムに大使館を移転しない、ワシントンにあるパレスチナ代表事務所を閉鎖しない、パレスチナ自治政府に金銭的な援助を継続する、和平プロセスを後押しすることをパレスチナに約束していた。

 こうしたPAの動きに対して、イスラエルは同国がICCの加盟国ではなく、パレスチナ当局は国家でないため、イスラエル・パレスチナ紛争はICCの管轄外にあり、パレスチナによる裁判所への付託に法的な根拠はないと対応している。

 

評価

 ICCへの捜査付託は、パレスチナ自治政府(PA)によるガザ境界での衝突の「国際化」に向けた動きを示している。イスラエル側の協力が見込めないことから、捜査が円滑に進む可能性は低い。だが、イスラエルは捜査に協力しなくても、平和的なデモを行う「非武装」の民間人を殺害したことについて説明する責任がある。イスラエルがデモを動員したのはハマースであり、殺害したのもテロリストのハマースだと主張しているのは、この点を懸念しているからだと考えられる。

 またPAは、ICCに加え、国連の枠組みでも今回の死傷者に関する調査の実施に働きかけているが、これもイスラエルにとって懸念の一つだろう。18日、国連の人権理事会で独立した調査団に関する決議案が賛成多数で可決されている。とはいえ、来週に予定される安保理ではこの決議案に対しアメリカが拒否権を行使することが予想されている。

 他方、PAによる国際化の動きを助長した要因として、アラブ、イスラーム諸国による17日のアラブ連盟外相会合、18日のイスラーム協力会議の緊急会合が挙げられる。双方の声明では国際社会に対して、イスラエルによる犯罪の捜査などが主張されている。だが逆に言えば、これはアラブ・イスラーム諸国が今回の件について主体的な役割を担わないことを意味している。

 パレスチナ側は今回の件を「国際化」することに半ば成功している。その一方で、アッバース大統領の言動について注目したいのは、境界付近の抗議活動を止めさせる動きを見せなかったことである。例えば4月30日、アッバース大統領は、女子供をガザの境界から遠ざける、境界に行く必要は必ずしもないと呼びかけ、平和的なデモに留めるよう注意はしているが、抗議活動の実施については反対いていない。アッバース大統領が、予め境界での抗議活動で死者が発生することを予想していたかは定かではない。だが、国際社会が死者の多さに関心を示し、アラブ・イスラーム諸国がパレスチナに対し実質的な措置を取らない中、死者の増加がPAによる今回の「国際化」を促したことは指摘できるだろう。

(研究員 西舘 康平)

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