中東かわら版

№22 シリア:政府軍がダマスカス周辺を完全制圧

 2018年5月21日、シリア軍総司令部は、ダマスカス南郊の諸地区からテロリストを一掃したと発表した。これにより、ダマスカス県、ダマスカス郊外県の両県は政府軍が制圧することとなった。現在の概況は以下の通り。

図:2018年5月23日時点のシリアの軍事情勢(筆者作成)

 

オレンジ:クルド勢力

 

青:「反体制派」(実質的には「シャーム解放機構」と改称した「ヌスラ戦線」や、「シャーム自由人運動」などのイスラーム過激派)

 

黒:「イスラーム国」

 

緑:シリア政府

 

赤:トルコ軍(「反体制派」からなる「ユーフラテスの盾」なる連合が前面に立っているが、実質的にはトルコ軍)

 

赤点線内:「反体制派」(主にアメリカ軍からなる各国の特殊部隊の保護を受けており、実質的にはアメリカ軍)

 

 

 

1. ホムス市とハマ市との間の「ラスタン・ポケット」と呼ばれる地域を占拠していた「反体制派」が対処し同地域が解放された。これにより、ダマスカス・アレッポ街道のホムスとハマとの間の区間が再開した。

 

2. ダマスカス南郊の、ヤルムーク・キャンプをはじめとしている地域で、まず同地域に隣接する諸集落を占拠していた「反体制派」が退去、次いで政府軍が残りの地域を占拠していた「イスラーム国」に総攻撃をかけた。占拠地域がほとんど解放されたのち、「イスラーム国」は同地域からシリア東部の砂漠地帯へと退去した。

 

3.ダイル・ザウル県東部ではクルド勢力がアメリカ軍の支援を受け「イスラーム国」への攻撃を再開した。また、イラク軍が数度にわたり、シリア領内の「イスラーム国」の拠点を爆撃した。ユーフラテス川右岸でも、政府軍が「イスラーム国」の占拠地の一部を解放し、同派の占拠地は縮小した。

 

 

 

評価

 

 5月10日にイスラエル軍が「シリア領内のイランの拠点」に対する攻撃と称して大規模な空爆を行ったが、この空爆は政府軍が「イスラーム国」や「反体制派」の占拠地を解放する流れにさしたる影響を及ぼさなかった。今後は、ダマスカス・アレッポ街道の確保・再開に向けた政府軍の攻勢が一層強まるだろう。こうした情勢に対し、トルコ軍はイドリブ県内で「監視ポスト」を増設し、政府軍の動きを牽制している。同県の「反体制派」諸派の間では、4月末に有力諸派間の抗争は一応停戦となったものの、その後も犯人不明の爆破や暗殺事件が続き、諸派の幹部が殺害されている。

 一方、アメリカ政府はイドリブ県の「反体制派」への援助を停止し、クルド勢力をはじめとするシリア北東部の「反体制派」への支援を強化する方針をとる模様である。また、フランス軍も、トルコ軍に対しクルド勢力を援護するためにシリア領内に6カ所余り拠点を設置した。こうした状況に鑑みると、当面の焦点は政府軍によるダマスカス・アレッポ街道を確保・再開するための作戦であるが、長期的にはアメリカ、フランス、トルコ、クルド勢力などによるシリア領の占拠が紛争終結、ひいてはシリア人の苦境の打開の障害として顕在化していくだろう。

 

(主席研究員 髙岡 豊)

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