中東かわら版

№13 モロッコ・イラン:モロッコがイランとの国交断絶を発表

 5月1日、モロッコのブーリータ外相はイランとの断交を発表した。同外相は、レバノンのシーア派軍事政治組織・ヒズブッラーが、在アルジェリア・イラン大使館要員を通じてモロッコのサハラ地域の独立を目指す「ポリサリオ戦線」に武器支援を行っていると非難し、これを国交断絶の理由とした。断交については、同外相のイラン訪問時にザリーフ外相に伝えられたようである。またモロッコの駐イラン大使もイランを出国し、イランの駐モロッコ大使に対しては国外退去が通達された。なおブーリータ外相は、本決定はモロッコ・イラン二国間関係にもとづき、中東情勢や他国からの圧力とは無関係であるとした。

 以下は、ブーリータ外相が発表した、ヒズブッラーによるポリサリオ戦線への支援の詳細である(モロッコ通信ハヤート紙)。

  • イランは、ヒズブッラーを通じて、モロッコの安全を脅かすポリサリオ戦線と2016年から同盟関係にある。我々はこの関係についての具体的な証拠を持っている。
  • 2016年、ヒズブッラーはティンドフ(アルジェリア西部のサハラーウィー難民キャンプ)への軍事部門要員の派遣、地対空ミサイルの供与などが行われた。これらは対モロッコ・ゲリラ戦を支援するためである。
  • 2016年、ヒズブッラーの支援のもと、レバノン国内にサハラーウィー住民支援委員会が結成された。
  • 2017年3月12日には、カサブランカ空港で、カーシム・ムハンマド・タージュッディーン(ヒズブッラーのアフリカ地域財務責任者)が逮捕された。同人は、マネー・ロンダリングとテロ関連容疑で米国によって国際手配されていた。

 

評価

 これまでモロッコ政府は、湾岸アラブ諸国とイランの断交問題(カタル断交問題も含む)について積極的に関与することはなく、対立緩和に向けた対話の呼びかけを行う程度の外交姿勢であった。今回の突然ともいえる断交の決定には、サウジアラビアからの働きかけ、最近のモロッコ政府とポリサリオ戦線との対立が関わっていると考えられる。

 モロッコの従来の対イラン姿勢から突然大きく変化したことを考えると、イランと対立するサウジが友好国モロッコに対し、サウジ主導のイラン包囲網への参加を働きかけたと推測される。サウジとモロッコは同じ王制国家として王室どうしの親交は深い。ただし、モロッコ政府は断交の決定は純粋に二国間関係の問題と発表しており、事実関係は不明である。

 他方、最近数カ月間、サハラ地域におけるポリサリオ戦線による軍事的威嚇により、モロッコ政府と同派の緊張が高まっている。またEU司法裁判所がEUとモロッコ政府との農業協定に関し、サハラ地域をモロッコ領と見なさない決定を下すなど、EU内にサハラ地域をモロッコ領と認めない流れが生まれていた。モロッコはサハラ地域に対する同国の主権を国際社会に承認させるべく、アフリカや中東諸国に外交活動を展開してきた。つまり、モロッコ側には、仮にポリサリオ戦線とヒズブッラーが協力関係にあるならば、イランと断交する理由が存在する。

 しかし、ヒズブッラーがポリサリオ戦線を軍事的に支援する合理的根拠は見当たらない。イスラエルを最大の敵とし、シリア紛争においてアサド政権を支持する立場にあるヒズブッラーにとって、モロッコ、とりわけサハラ地域に何らかの実現したい利益は存在しない。また、従来よりポリサリオ戦線を支援しているのはアルジェリアだが、ヒズブッラーはアルジェリアと特段親密な関係にあるわけでもない。さらにイランは、ポリサリオ戦線の自称国家「サハラ・アラブ民主共和国」を国家承認していない。

 モロッコは中東情勢やサウジ・イラン関係に特に影響力をもつ国ではない。したがって、今回のモロッコによるイラン断交は、サウジ・イラン間の対立状況に大きな変化をもたらさないと思われる。むしろ、ヒズブッラーの関与を口実に、モロッコ政府がポリサリオ戦線に対してより強硬姿勢をとる可能性もあるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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