№12 ヨルダン・イスラエル・パレスチナ:日本の安倍首相と河野外相による会合・会談
日本の安倍首相は5月1日、パレスチナのアッバース大統領と会談した。日本側はパレスチナに対して二国家解決を支持すること、和平に積極的な役割を果たす決意を伝えることを訪問の目的だと伝えた。両者は中東和平、対パレスチナ支援、「平和と繁栄の回廊」構想、北朝鮮情勢等につき協議した。また中東和平について、日本側は、既存の国連諸決議や当事者の合意に基づき、交渉による解決を支持する、エルサレムへ大使館を移転するつもりはない旨伝えた。さらに、米国の役割は不可欠であり、同国から提案があれば、これに向き合い交渉につくことが重要だと発言した。北朝鮮情勢については、同国への最大限の圧力を維持し、中東が制裁の抜け穴になってはならない旨、パレスチナ側に説明した。
また同日、安倍首相はヨルダンのハーニー・ムルキー首相兼国防大臣と会談を行った。ヨルダン側は財政・経済分野における日本からのさらなる支援に期待を示した。他方、日本側も、両国の経済関係の一層の発展を希望する旨発言した。また、シリア難民を受け入れていること等につきヨルダンに敬意を示した。今回の会談では、無償資金協力の枠でヨルダン北部のシリア難民受入地域を対象とする廃棄物処理の中継基地と最終処分場に必要な資材を支援することが合意された。
これら首相の訪問に先立って、4月28日、日本の河野外相がヨルダンのアブドッラー2世国王と会談した。また翌日、同外相は「平和と繁栄の回廊」構想第6回4者閣僚級会合を実施した。同会後にはヨルダン計画・国際協力大臣、イスラエル経済産業大臣、パレスチナ外務庁長官が出席した。
評価
今回の安倍首相と河野外相によるヨルダン、パレスチナへの訪問では、パレスチナ問題が域内の主要な問題として協議された。パレスチナ問題が外交上の議題となる場合、日本側には経済関係の強化や支援が求められる場合が多い。しかし今回は、中東地域が北朝鮮に対する制裁の抜け穴になってはならないとし、北朝鮮問題と中東の平和と安定に係る問題を関連づけた。日本政府が中東諸国との政治関係を強化しようとしていると捉えることができよう。
また、日本側はアメリカの役割が不可欠だと説明しているが、これは5月1日のポンペオ米国務長官とアブドッラー2世国王との会談への配慮だろう。同長官は、二国家解決とパレスチナ・イスラエル双方に二国家解決に基づく交渉を再開するよう働きかけ、また実現可能かつ当事者が満足する解決策の用意がある旨、ヨルダン側に伝えている。
他方、パレスチナの『ワファー通信』は、安倍首相とアッバース大統領との会談について、北朝鮮情勢およびアメリカの不可欠な役割に触れておらず、パレスチナ問題をめぐる日本側との姿勢に違いが見られる。これは、4月30日からラーマッラーで開催されているパレスチナ民族評議会でのアッバース大統領のスピーチにも示されている。アッバース大統領は、イスラエルとアメリカに対する重要な措置として、この会議を通じてイスラエル国家の承認を撤回し、またハマースが支配するガザ地区への資金拠出を禁止する等の決議を採択する決意があると表明している。
このようにパレスチナ側がアメリカの関与に否定的であり、イスラエルと交渉に臨む姿勢も見せていない状況では、パレスチナ問題を日本の中東外交の重要課題に設定し、これに強く関与していく中で日本の利益(北朝鮮問題など)を達成することは容易ではないだろう。
(研究員 西舘 康平)
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