中東かわら版

№9 トルコ:大統領選挙と総選挙実施の前倒し

 4月18日、エルドアン大統領は、2019年11月に予定されていた大統領選挙と大国民議会選挙(総選挙)を前倒しし、2018年6月24日(日)に実施すると発表した。この中でエルドアン大統領は同選挙を早める理由として、トルコは未だに古いシステムによって治められており、その弊害が現れていると述べ、トルコが直面しているシリア北西部でのクルド系勢力に対する軍事作戦を挙げた。

 会見に先立ちエルドアン大統領は、極右政党の民族主義者行動党(MHP)のデヴレト・バフチェリ党首と大統領府で会談しており、バフチェリ氏から選挙を6月に前倒しするよう提案があったことを明かした。

 トルコでは、2017年4月16日に議院内閣制から大統領制移行の賛否を問う国民投票が実施され、ごく僅差で賛成が上回っていた。これに基づいた本格的な制度移行は、次期総選挙(当初の予定は国会議員の任期満了となる2019年11月)後からとなっていたが、今次決定により1年半以上前倒しされることとなった。

 トルコ高等選挙委員会のギュヴェン委員長も6月にダブル選挙を実施することを正式に発表し、4月23日付の官報で今次選挙に参加できる政党を公表した。参加できるのは、公正発展党(AKP)、独立トルコ党、大連合党、共和人民党(CHP)、民主党、人民の民主主義党(HDP)、優良党(または「良い政党」、Iyi Parti)、民族主義者行動党(MHP)、幸福党、愛国党の10政党となる。

評価

 今回、エルドアン大統領が総選挙の前倒しを決断した背景には、シリアでの軍事作戦、米国との関係、内政問題等、いくつかの要因が挙げられよう。この中で最大の要因は2018年1月20日に開始した、シリア北西部アフリーンへの軍事攻撃「オリーブの枝作戦」である。アフリーンは、トルコがテロ組織と断定するクルディスタン労働者党(PKK)の兄弟組織、人民防衛部隊(YPG)の拠点である。トルコと国境を接する同地域では、「イスラーム国」衰退後、YPGが勢力を拡大しておりトルコは国内で活動するPKKへの影響を危惧していた。当初、エルドアン大統領は同作戦はごく短期間で終了するとの見通しを述べたが、情勢は好転しておらず泥沼化する可能性もある。

 さらにはトルコ国内でのエルドアン大統領への求心力低下も挙げられる。クーデタ未遂事件以降、トルコ政府は、非常事態宣言を7回(4月19日に7回目の延長決議)延長し、クーデタを首謀したとされるギュレン派のみならず、反政府系のジャーナリストや世俗派を次々と拘束しているが、長期化する強権政治に対し都市部を中心にエルドアン離れが進んでいる。他方、エルドアン大統領の出身母体であるAKPの支持者は敬虔なムスリムが多く、彼らはこれまで以上に親イスラーム主義的な政策を求める傾向にある。AKP支持者らは自分たちが期待していたようには内政が変化していないことで、エルドアン不支持に回るという、「二重の不支持」が存在することも事実である。

 だが、現時点においてエルドアン以外に有力な大統領候補は見当たらず、与党AKPとともに今後も政権を担う可能性が高い。2018年2月からは政策が近いMHPとの協力体制を強化し、「国民の同盟」を結成している。大統領はこれまで総選挙の前倒しについては否定的な見方をしてきたが、勝機があるうちに自身の権力を確立しておこうという思惑が働いたのではないかとみられる。国内外で多くの問題を抱え、様々な駆け引きや微妙なバランスが求められる状況下でリーダーシップを発揮してきたエルドアンの大統領再選が有力視されている。

 

(研究員 金子 真夕)

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