中東かわら版

№8 イスラエル:シリア国内のイラン施設を攻撃か

 4月9日、シリアのパルミラ西方にあるシリア軍の基地(T-4)が空爆を受けた。シリアのメディアは、当初、米軍の攻撃だと報道したが、米国は攻撃を否定した。その後ロシアの『インターファック』はロシア軍筋の話として、攻撃したのはイスラエル軍だと報道した。イスラエル側は、同報道に対して沈黙を守った。イランのメディアは、同空爆でイラン系の部隊であるエルサレム旅団の隊員7人が死亡したと報道した。米軍事筋は、イスラエルから攻撃の事前通報があったとしたが、ロシア側は、イスラエルが事前通報なしで、ロシア人が死亡する可能性のある攻撃をしたことを非難した。11日には、プーチン大統領がネタニヤフ首相に電話をした。イスラエル側の報道では、プーチン大統領は、イスラエルに対してシリアの主権や治安を損なうような行動をしないよう求めた。

 パルミラ近郊の基地については、イスラエルは、2月10日、領空侵犯で撃墜した無人機が、同基地から発進したとして報復攻撃を行った。同攻撃の際、イスラエル軍機1機がシリア軍の攻撃で撃墜されている。同無人機に関して、4月13日、イスラエル軍は、機体に爆発物が搭載されていたと発表した。イスラエル側は、同機の目的は偵察ではなく、イスラエル国内で何からの作戦を実施しようとしていたと主張した。さらに15日、『NYT』紙のコラムニスト、トーマス・フリードマンは、イスラエル軍の情報源が、イスラエル軍が4月9日にイランのエルサレム旅団の隊員を標的にした攻撃を実施したことを確認したと報道した。フリードマンによれば、同情報源は、イランが爆薬を搭載した無人機をイスラエル領空内に侵入させたことで、イスラエルとイランの対立は新たな段階に入ったとの認識を示した。フリードマンは、シリア国内でイランとイスラエルの直接軍事衝突の危機が高まったと警告した。同記事が掲載された後も、イスラエル軍は9日のパルミラ西方の空軍基地攻撃については公式なコメントをしていないが、イラン側は、フリードマン記者のコラムにより、イスラエルによる攻撃であることが明らかになったとして、政府報道官などが報復を示唆する発言をしている。16日、イスラエルのリバーマン国防相は、軍にイランの報復攻撃に対する警戒態勢の強化を指示した。

評価

 イスラエルは、シリア国内にイランの軍事関係者のプレゼンスが強化されることを警戒している。そのため2月10日に、イラン製無人機がイスラエル領空を侵犯したことにイスラエルは強く反発し、無人機が発進したシリア国内の基地を空爆した。今回イスラエルが、基地施設だけでなくイラン人の軍事関係者を標的にした空爆を実施したとすれば、両国の対立は一段と激化したことを意味する。フリードマン記者が懸念するイラン・イスラエルの直接衝突が発生した場合、多数のアクターが参入して錯綜しているシリア紛争の構図がさらに複雑になるのは避けられない。

 

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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