中東かわら版

№7 イラク:経済の課題

 2018年4月12日付『ハヤート』(サウジ資本の汎アラブ紙)紙は、「イラク経済の課題」と題して同国の経済状況と課題について要旨以下の通り報じた。

l  経済人の多くは、サッダーム・フセイン大統領の政権奪取(1979年)とイラン・イラク戦争の勃発(1980年)以来、イラクについての有用な経済情報が存在していないと指摘している。2003年のフセイン政権打倒以来、アメリカ、世界銀行、IMFなどがイラク経済についての研究を試みている。

l  イラクでは長年国勢調査が行われていないが、現在の人口はおよそ3600万人である。2016年のGDPは、1640億ドルで、一人当たりのGDPは4700ドルに達しない。輸出の99%は原油であり、現在は日量440万バーレルの原油を輸出している。

l  1964年に銀行や主要産業が国有化されて以来、イラク経済では国家が大きな役割を果たしている。民間部門の活動が続いたのは、不動産、商品流通、小規模工業の一部、農業部門の若干部である。これにより、イラクの経済は不透明な利益分配経済となっており、フセイン政権打倒以来、経済法規の改正や投資法の制定がなされたにもかかわらず、投資家たちはイラクへの投資に熱心ではない。

l  今後のイラクの再建のため、政府は880億ドルの資金が必要であると見込んでいる。石油収入がその多くを賄うとしても、イラク内外の企業や投資家の活動を促進することが不可欠で、そのためには安全、政治的安定、投資家からの信頼獲得が重要である。

l  2018年度の国家予算の総額は約880億ドルで、石油収入は1バーレル当たり46ドルで日量380万バーレルを輸出する見通しで算出された。非石油収入も含む歳入は約779億ドルで、財政赤字は106億ドル程度となる見通しである。財政赤字は、石油価格の上昇により改善すると思われる。

l  IMF、世界銀行などの国際機関とイラク政府との間で経済改革のための協議が行われているが、汚職・財政や経済事業実施に際しての侵害行為への対処が重要であろう。イラクのような治安と政治的安定に大きな問題を抱える国での経済発展には、広範な行政改革と適切な政治状況が必要である。

 

評価

 豊富な石油資源を持つイラクの経済的な潜在能力の高さには疑問の余地はないとしても、同国においては政治的混乱が各種武装勢力の跋扈や「イスラーム国」のようなイスラーム過激派の伸長、そして政府や基幹産業内部での利権争いや汚職を招き、経済発展を阻害してきた。フセイン政権打倒以来、日本も含む各国が巨額の支援を行っているが、イラクの国家予算や各国からの支援の大部分が(地元の経済には寄与しない)治安企業・傭兵企業への支払いなどに支出されたり、不正な支出や横領の被害にあったりしてきた。特に後者は、現行の政治・行政の体制が、各種政治勢力や民兵集団が利権を分配する道具となっていることに起因する。経済発展のためにこのような体制を改変することが重要であることについても多くの当事者に異論はないだろうが、2014年にアバーディー首相が発表した政治・行政改革の進捗は思わしくない。この状況が、5月に実施予定の国会議員選挙などの結果を経て劇的に改善する見通しは立っていない。

 「イスラーム国」の活動により深刻な被害を受けたイラクに対する国際的な支援は重要だが、最終的にイラクが経済的発展を実現できるか否かは、政治体制に参加する諸勢力、ひいてはイラクの有権者の行動次第とも言えよう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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