中東かわら版

№5 シリア:「化学兵器使用」問題

 「ホワイト・ヘルメット」などの「反体制派」に与する諸組織は、2018年4月7日深夜にダマスカス市東郊で「反体制派」が占拠しているドゥーマ市で毒ガスを使用した攻撃が行われたと主張した。これを受け、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツなどがシリア政府軍の仕業であると非難し、軍事攻撃も含む「強い反応」を示すと脅迫した。一方、シリア政府とロシアは、毒ガスの使用を否定するとともに、以前から政府軍優位の局面で「反体制派」が毒ガスの使用をでっちあげる恐れがあると指摘してきたと主張した。ただし、現時点では毒ガス使用の有無を確認することはできておらず、使用した主体についての証拠も提示されていない。

 攻撃についての情報を受け、国連安保理では本件についての決議案が審議されているが、その内容はかつてロシアの拒否権行使で否決された、「国際調査団」の再建・強化を目指す内容である。

 

評価

 シリアでの化学兵器の使用については、2013年8月、2017年4月にも国際的な注目を集め、2017年4月の場合はアメリカ軍がシリア領内の軍事空港に対し巡航ミサイル攻撃を行った。しかし、化学兵器や毒ガスの使用については、政府側も「反体制派」側も敵方が使用したと常時主張し続けており、その意味でアメリカ政府がオバマ政権時代から主張している「(化学兵器の使用は)レッドライン」という立場が紛争の現場に及ぼす影響は乏しかった。また、欧米諸国がシリアに対する大規模な軍事行動に出る場合、ロシアとの衝突の危険性が高まる上、紛争の現場での力関係を一変させるような攻撃を行った場合の事後処理に膨大な政治・軍事・経済的な資源投入が必要となる。ここで、欧米諸国が自らの資源を投じる意志は乏しいと思われるため、各国が軍事行動に出た場合でも現実的な影響に乏しい量・質に終わる可能性も排除できない。

 また、今般使用された毒ガスをいずれの主体がどのように入手したかについても、シリア政府と北朝鮮との協力説から、政府軍が東グータ地区を制圧する過程で摘発した「反体制派」による毒ガス製造工場についての発表まで、第三者が確認することが不可能な憶測が多数流布している。

 結局のところ、シリア紛争で化学兵器の使用が繰り返し焦点となることは、紛争についての情報発信が敵方を「悪魔化」するためのプロパガンダ合戦に過ぎなくなっていること、度々「レッドライン」であると警告してきたにも関わらず毒ガス類の使用を全く抑止できていない欧米諸国の力の限界を示しているといえよう。

(髙岡上席研究員)

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