中東かわら版

№99 リビア:UNSMILによる新たな和平案

 9月20日、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)のガッサーン・サラーマ代表は、リビア統一プロセスが全く進まない現状を打開するため、新たな和平案「リビアのためのアクション・プラン」を発表した。新和平案は、GNA、東部政府、EU諸国、米国、アラブ連盟、アフリカ連合から歓迎された。主な内容は以下のとおり。

(1)2015年12月のリビア政治合意(LPA)を修正する。

(2)UNSMILの後援で、リビアの全勢力が参加できる「国民会議」を開催する。「国民会議」は、修正LPAに基づき、新たな統一行政機関(現在の国民合意政府(GNA)の執行評議会に取って代わる機関)を選出する。

(3)代表議会は、憲法草案国民投票、大統領選挙、議会選挙の実施要領を定めた法案を最優先に成立させる。

(4)憲法起草委員会は、「国民会議」の提案に基づき、憲法草案を修正する。

 26日からは、上記(1)のLPA修正協議がチュニスで始まった。修正協議には、GNA側からは国家評議会(GNAの諮問機関。元国民議会(GNC)議員が多い)が、東部側からは代表議会が参加している。議論の焦点は、①「国民会議」が選出する新たな統一行政機関の構成員の数を現在の9名から3名に削減するか、②統一行政機関の権限をどのように変更するか、である。特に②について、東部の代表議会とリビア国民軍(LNA)は、現行LPAではGNA首相が国軍最高司令官であること、諜報機関やその他国家機関のトップの任命権はGNA執行評議会にあること(LPA8条)に反対し、修正を強く主張している。

 

評価

 サラーマ代表の新和平案は、国民合意政府(GNA)がリビア統一の機能を果たさないまま任期の1年を迎えようとしているため(2017年12月で任期切れ)、和平プロセスを再活性化する目的で提案された。新和平案の焦点は、リビア国内でほとんど実権を掌握していないGNA執行評議会を終わらせ、リビアの全勢力によって合意された統一行政機関をつくりなおし、統一国家の成立への推進力を生み出そうとする点にある。新和平案を支持する国連、EU、米国、アラブ諸国のねらいは、GNAの正統性を一貫して否定してきた東部勢力が合意する行政機関をつくることであろう。

 新和平案は、まず第一段階であるLPAの修正が東西勢力によって合意されなければ実行に移せないため、GNA側が東部勢力の要求であるLPA8条の修正を受け入れるかが今後の注目点となる。東部最大の実力者であるハフタルLNA総司令官は、2016年末から始まった諸外国による仲介外交において様々な閣僚・首脳と会談し、民兵の指導者という立場から、国際的に認められた正式な交渉相手に立場を変えた。LPAが、ハフタルに政治的・軍事的役割を付与する内容に修正される可能性は高くなってきたと言えるが、その場合、GNA側にどのような「見返り」が与えられるのかという点も、新和平案の実現可能性を考えるうえで重要になるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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