中東かわら版

№100 イスラーム過激派:ラスベガスでの銃撃事件

 2017年10月1日(現地時間)アメリカのラスベガスで乱射事件が発生、約600人が死傷した。この事件について、「イスラーム国」の自称通信社「アアマーク」が事件は「実行犯は「イスラーム国」の兵士のひとり」と主張する短信を発表した。また、その後「イスラーム国 アメリカ」名義の犯行声明も出回った。

画像1:ラスベガスでの攻撃の実行者は「イスラーム国」の兵士であり、同人は同盟国を攻撃せよとの諸般の呼びかけに呼応して作戦を実行した。

画像2:アブー・バクル・バグダーディー氏の呼びかけに応じ、カリフの兵士の一人としてアブー・アブドゥルバッル・アムリーキーがホテルからコンサートを銃撃、600人を殺傷し、弾薬が尽きた後で殉教者となった」

 

 評価

 

 画像1、2を見る限り、いずれも「イスラーム国」が今般の事件と深く関与していることを示す情報は含まれていない。そうした意味で、現時点では乱射事件を自派の戦果に取り込もうとしている可能性も、「イスラーム国」自身が作戦として企画・実行した可能性も否定できない。ただし、「イスラーム国」による情報発信で注目すべき点として、画像1と同時に画像3の短信を発信し、実行犯が数カ月前にイスラームに改宗したと主張している点である。

画像3:ラスベガスでの襲撃の実行者は、数カ月前にイスラームに改宗していた。

 

 このような情報を付加することにより、少なくとも「イスラーム国」自身やその支持者・ファンにとっては、銃撃の実行犯がこれまでどのような私生活・信仰実践をしていたかについての捜査情報や報道は無意味なものとなる。彼らにとっては、実行犯の振る舞いは作戦を実行するための偽装であるとの言い訳が立つからだ。今後も欧米での様々な事件を「イスラーム国」が戦果として取り込む努力を続けるならば、実行犯がムスリムであるとの主張を繰り返すことも考えられる。しかし、実行犯と「イスラーム国」との組織的関与を示す証拠(忠誠の表明や出撃前動画、実行者のみが知りうる秘密の暴露など)を提示しなければ、事件との組織的関与を裏付けることができないのと同様、今般のような事例の場合は実行者が改宗したことを証明する情報を動画などで発信する必要があるだろう。いずれにせよ、「イスラーム国」が発信する情報、特に「アアマーク」の短信類については、「声明・短信などが本物である」ということと、「声明・短信に記載されている情報が事実である」ということとが完全な別問題であるという、観察の基本に立ち返ることが重要だろう。

 

 

 

 

 

 

(イスラーム過激派モニター班)

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