中東かわら版

№172 イスラエル:米国大使館のエルサレム移転(5月)

 2月23日、米国務省は、テルアビブにある米国大使館を今年5月にエルサレムに移転させると発表した。国務省は、移転の時期はイスラエルの70周年建国記念日(5月14日)と同時期になるとした。移転の手順は、5月までに西エルサレムにある米国領事館に米国大使と少数の館員が在勤する形で仮の大使館を開設する。米国大使の公邸は、テルアビブの北のヘルツェリアにあるが安全上の理由からフリードマン大使は、現在の大使公邸に留まり、エルサレムの大使館に通勤する。その後、領事館の機能を拡大し、2019年末までに大使館とする。領事館と大使館が一緒になるが、国務省は、領事館の機能や権限に変化はなく、領事館としての業務を継続するとした。

 一方、新規の大使館については時間をかけて建設するとしている。2017年12月6日にトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した際には、ティラーソン国務長官が、エルサレムへの大使館移転には時間がかかると述べていた。その後2018年1月22日、イスラエル国会で演説したペンス副大統領が、大使館を2019年末までにエルサレムに移転すると明言した。この時、『ワシントン・ポスト』紙(1月22日)は、フリードマン駐イスラエル大使とホワイトハウスのクシュナー上級顧問は、2018年内に大使館をエルサレムに移転させる案を支持していたと報道していた。大使館の移転経費は約5億ドルかかると報道されているが、国務省は、ユダヤ人で共和党の大口献金者であるカジノ王シェルドン・アデルソンが、大使館移転経費の一部について寄付する用意があることを表明しており、そのような事が法的に可能かを検討しているとした。アデルソンは、ネタニヤフ首相のスポンサーとして有名であり、パレスチナ国家の創設に反対する人物である。前回の大統領選挙ではトランプ候補に献金しており、当選後、クシュナー上級顧問に米国大使館のエルサレム移転を働きかけていたと報道されている。

 パレスチナ側は、今回の移転決定に強く反発し、パレスチナ自治政府のルデイネフ大統領報道官は、一方的な行動は和平に寄与しないし、政治的な正統性もないとコメントした。PLOのエラカート事務局長は、同移転は国際法に違反し、2国家解決案を破壊し、パレスチナ人やアラブ人だけでなく、キリスト教徒、イスラーム教徒の感情を挑発するものだと非難した。

 2018年5月14日は、西暦ではイスラエル建国70周年記念日になる。しかし、イスラエルでは建国記念日の式典はユダヤ暦に沿って行われており、今年の建国記念日は4月19日になる。他方、パレスチナ側は、西暦の5月14日をナクバの日(大災難の日)として、毎年抗議行動を実施している。

評価

 トランプ政権は、選挙公約を実行する政権であることを支持者にアピールしてきた。今回の動きも、今年の中間選挙、2020年の大統領選挙に向けた国内向けのパフォーマンスだろう。中東和平問題を選挙運動の材料にされたパレスチナ側は強く反発しているが、トランプ政権側は気にしていないようだ。トランプ政権が、米国内の支持者向けに5月14日の独立記念日70周年にあわせて大使館の開会式をやる場合、イスラエル側の独立記念日関連事業は終了しているが、パレスチナ側のナクバの日と重なることになる。また今年のラマダーン(断食月)は、5月15日前後から始まる。エルサレムの米国大使館の開会式は、パレスチナ人にとって怒りの対象になるのは確実である。それが断食月の始まりと重なるのであれば、政治的な怒りに加えて、宗教的な高揚感も加わることになる。ただトランプ大統領のエルサレム首都宣言後、西岸とガザでは抗議行動が継続しているが激しい衝突にはなっていない。大使館移転が実施されても、パレスチナ人の若者たちがどう反応するかは不透明である。またアラブ世界、イスラーム世界の対応も、未知数である。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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