中東かわら版

№171 パレスチナ:アッバース大統領の安全保障理事会での演説

 2月20日、パレスチナ自治政府のアッバース大統領は、安保理の中東和平問題に関する会合で演説を行った。同演説で、アッバース大統領は、トランプ大統領のエルサレム首都宣言を違法な決定だと非難し、もはや1国だけで紛争を解決できる時代ではないとして、米国単独の仲介ではなく、米国を含む多国間の枠組みでの和平交渉を求め、国際的な和平会議を2018年半ばまでに開催することを提案した。演説を終えたアッバース大統領は、すぐに会場から退席した。報道では、アッバース大統領の安保理会合参加は、2011年に続き2回目。アッバース大統領が退席した後、米国のヘイリー国連大使は、エルサレムをイスラエルの首都とする決定は変わらないとし、アッバース大統領に和平交渉から逃げないよう呼び掛けた。今回の会合には、ホワイトハウスのクシュナー上級顧問とトランプ大統領の国際交渉担当特別代表ジェイソン・グリーンブラットが参加した。公開協議の後に開催された非公開協議で、同2人が参加者の質問に答える形で、策定中の和平案について説明したと報道されている。

 

評価

 アッバース大統領は、米国を含む国際的な仲介メカニズムによる国際会議を2018年半ばまでに開催するよう要請した。トランプ政権に対する不信感から米国単独の仲介を拒否した点を除けば、パレスチナ側の中東和平交渉に対する立場に大きな変化はない。PLOのエラカート事務局長は、2月13日の『NYT』への投稿(Forget Trump’s U.S. as the Mideast’s Mediator)で、アッバース大統領演説と同じ考えを表明している。昨年12月6日のトランプ大統領のエルサレム首都宣言から約2カ月を経て、PLO議長と事務局長が同宣言に対するパレスチナ側の公式な対応策を表明したことになる。またアッバース大統領が、演説の中で中東和平交渉のこれまでの経緯について長めに言及したのは、トランプ政権の政策がこれまでの議論の積み重ねを考慮していないことへの非難だろう。しかし、米国のヘイリー国連大使は、エルサレムに関する決定は変わらないと言い放ち、あたかもパレスチナが和平交渉から逃げ出したかのように、パレスチナに和平のテーブルに戻るように呼び掛けた。同大使の発言は、今回もイスラエルあるいは米国内の支持者向けの発言・パフォーマンスだろう。米国とパレスチナの対立が安保理で改めてあらわになったが、当面、両者の対立が軽減・解消する可能性はない。

 非公開になった会合では、クシュナー上級顧問とジェイソン・グリーンブラット特別代表が策定中の中東和平案について説明した。2人が行った説明の具体的内容は、今のところ、ほとんどメディアに漏れてない。機密厳守が徹底しているのかもしれないが、今回も昨年12月3日にクシュナーがワシントンのブルッギングス研究所のセミナーで行ったような具体的な中身のまったくない応答をしている可能性もある。

(中島主席研究員 中島 勇)

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