中東かわら版

№177 イスラーム過激派:フランスでの襲撃事件

 2018年3月23日、フランス南部のトレブ市とその周辺で銃撃事件、スーパーマーケットでの立てこもり事件が発生し、計4人が死亡した。襲撃犯のモロッコ系の男は射殺されたが、犯行の際「イスラーム国」の兵士を自称したり、2015年11月のパリでの襲撃事件の実行犯の釈放を要求したりした。この事件に関し、「イスラーム国」の自称通信社「アアマーク」が短信を発信した。

 

画像:「アアマーク」の短信。治安筋:南フランスのトレブでの攻撃実行者は「イスラーム国」の兵士である。同人は、連合国を攻撃せよとの諸般の呼びかけに応えて作戦を実行した。

 

評価

 

 この種の事件に反応する際には、「アアマーク」の短信類は、「声明・短信などが本物である」ということと、「声明・短信に記載されている情報が事実である」ということとが完全な別問題であるという、観察の基本に立ち返ることが重要だろう。「イスラーム国」は2017年に発行した機関誌『ルーミーヤ』の諸号で単独犯型の襲撃について特集を連載したことがあり、商業施設への立てこもりや、攻撃の際「イスラーム国」を騙る手法について詳細な記事を掲載している。このため、「イスラーム国」と無関係の個人的な非行で「イスラーム国」を騙ることも、「イスラーム国」とその支持者らが世界中で起こるあらゆるムスリムの非行を自派の「戦果」として取り込むことも論理的には難しいことではない。そして、「アアマーク」の短信こそが、この騙りと取り込みを成立させる重要な道具なのである。

 欧米諸国では、ムスリムであることそのものが治安上の疑念を引き起こすほどに「イスラモフォビア」が深刻化しているとの指摘が度々上がるが、事実関係についての取材や分析ぬきで「アアマーク」の短信を「イスラーム国」の「犯行声明」と認定するような反応は、このような事態を悪化させ、模倣犯の出現を促進するだけに終わるだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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