中東かわら版

№176 パレスチナ:パレスチナ自治政府のハムダッラー首相の車列への爆弾テロ

 2018年3月13日、パレスチナ自治政府のハムダッラー首相は、ガザを訪問した。訪問の目的は、世界銀行の支援でガザ北部に建設された下水処理施設の開設式に出席すること、またガザを訪問中のエジプト諜報機関代表団と会談することだった。しかし、同首相の車列がイスラエル側のエレツ境界事務所を通過してガザに入いってすぐの場所(ベイト・ハヌーン)で、車列を狙ったと思われる爆発があった。同首相の車列の車2台が大きな損傷を受け、警備員6人が負傷したが、ハムダッラー首相と首相に同行していたファラージ諜報長官に怪我はなかった。ハムダッラー首相は下水施設の開設式に出席した後、西岸のラーマッラーに戻った。パレスチナ自治政府は、今回の事件は首相を狙ったテロだと非難し、ハマースの警備の不備を批判した。ハマースは、ガザの秩序を不安定化させ、パレスチナの和解の動きを妨害するものだと非難し、犯人の捜査を開始した。ハマースはすでに容疑者を逮捕したとの報道もある。エジプト外務省は、今回の爆弾テロを非難し、エジプトはパレスチナ和解の仲介を継続すると発表している。今回の爆発では、犯行声明はまだ出ていない。

 パレスチナ自治政府のハムダッラー首相がガザを訪問するのは、2017年秋に和解協議が本格化した後では2回目になる。ガザでパレスチナ自治政府幹部に対する暗殺未遂事件と思われる事件が発生したのは珍しいが、ハマース幹部暗殺事件は時折、発生している。2017年3月にはハマース軍事部門幹部マーゼン・フカハーが自宅前で頭を撃たれて死亡した。ハマースは対イスラエル協力者の犯行だとして犯人を逮捕・処刑しているが、イスラエルのリバーマン国防相はハマースの内部犯行だと主張している。2017年10月には、内務省治安部隊の責任者が車に仕掛けられた爆弾で負傷している。

 

評価

 パレスチナ自治政府側は、ハムダッラー首相を狙った爆弾テロと主張しているが、同行していたファラージ諜報長官が標的だった可能性もある。確かなことはハムダッラー首相のガザ滞在中の安全を守るはずのハマースの面子が潰れたことであり、ガザでの秩序・統制に対する不安が生まれたことだろう。ただ今回の爆弾テロで、ガザの状況が大きく変わる可能性は低い。現在のガザの最大の問題は、経済的困窮である。その状況を改善するためには、ハマースとファタハの和解協議が進展する必要がある。しかし、両者の政治対話は、まったく進展していないが、他方で中断もされていない。2月にはハニーヤ政治局長を含むハマース幹部らが、2週間近くカイロに滞在したが、協議に進展はなかったようだ。3月になり、和解を仲介しているエジプトの諜報機関の代表団がガザを訪問しているが対話進展の動きはない。

 こうした中、3月13日には、米国のホワイトハウス主導で、ガザの経済的苦境を改善するための会合が開催された。パレスチナは、同会合への参加を拒否している。米国からはクシュナー上級顧問、国際交渉担当特別代表ジェイソン・グリーンブラット、イスラエルからは占領地政府活動調整官組織(COGAT)のモルデハイ調整官が参加した。アラブ諸国からは、サウジ、バハレーン、UAE、オマーン、カタル、エジプト、ヨルダンが参加し、EU諸国、中東和平4者協議代表など19カ国の代表が集まり、電力、水、下水、保健に関する具体的なプロジェクトについて議論した。トランプ政権は、パレスチナ抜きでガザの経済問題の協議を強行し、その会合に、イスラエルと国交のないアラブ諸国の代表やイスラエル軍幹部が参加する状況が生まれている。ファタハもハマースも、こうした米国の動きに対抗するためには、政治対話を進める以外の選択肢はない。

(中島主席研究員 中島 勇)

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